雷にあったらどうします?
全米オープン初日の落雷事故の折、塾長はどうされていましたか? ゴルファーにとって雷は大敵。塾長はどんな思いをお持ちですか。
(埼玉県 40歳)
臆病者でも逃げるが勝ち
尾崎将司、トレビノ、オラサバルの組が15番グリーンに上がった時、彼方でゴロゴロと、実に静かな雷様の音・・・。稲妻は左より右へと斜めに走っておりました。その時はヘーゼルティンのコースへ来るとは思わなかった。
尾崎がグリーン右横バンカーからの第3打を打ち終えた時、冷たい風が稲光りする方向より吹いてきた。「来るのか?」と思った。
トレビノが苦笑いし、すぐにムッとした表情に変わった。彼はグリーン左ラフからの第4打をすくってしまった。バックスウィングを大きく上げて、ゆっくりとヘッドを球の下に入れたが、力加減のミスであろう。第5打は2.5メートルオーバー。
ここでピカッと光が走った。
競技委員に何かを訴えていたトレビノ。競技委員はハンド無線で、どこかと連絡を取った。
12時45分、トレビノは2.5メートルを入れた。尾崎は1.5メートルのバーディパットを入れた。やけに冷たい雨がポトッと落ちた。「降るな・・」と思った。
16番ティへ向かう途中、尾崎らは競技委員の指示で駐車中のオフィシャルカーに乗った。 ---- そのホールを終えて、非難せよ!との指示が出ていたのであろう。私も入れてくれんかな、と思ったが、それは無理な相談。私は雨に濡れることだけを心配し、雷が来るとは考えなかった。
ポッ、と雨が落ちて来た。
「降るぜ、これは!」
私は東スポの記者と顔を見合せ、「逃げよう」と言い、あとは一目散、クラブハウス目指して走りに走った。16番の左横から17番ティにたどり着いた時、雨足が連続的になった。
「こりゃ駄目だ! ハウスまで行けねえや」
私は17番ショートホール右横のカシワの樹林の中に入った。死者の出た木よりは200メートルの距離か・・・。
腕回り二かかえはある、一番デッカイ木の下に私は隠れた。雷よりは、雨から逃れるためである・・。大粒の雨が一気に降ってきた。
1時頃、ドドッカーン!と音がし、一気に雷がやってきた。
私は木の幹にへばりついた。連続して、そう5発は落ちた。稲光りは全く見えず、雷音のみ・・。私とともにカシワの林の中に隠れていた、30人以上の人は逃げ出した。悲鳴を上げて走り出す女性もいた。
彼らは雨よりは雷を避けた。木の下に残ったのは、雷よりは雨を避けた3人のみ。
「私のメガネはプラスチック製だから大丈夫。金属製のものは時計だけだか・・。まさか落ちることはあるまい・・」と全く根拠のないことを想いながら、木の幹に触らぬようにして立っていた。背中に冷たい雨がポトッ、と落ちてきた。
と、突然、ガラガラガーッ!
近くに落ちた。何時であったのか、時計を見る余裕なし。ただただ、幹にへばりつくのみ・・・。
1時5分、小雨となる。。雷は去った。
空が急に明るくなった。青空が出てきた。彼方の上空、腹くだしみたいなゴロゴロ音を出して雷様は遊んでいましたな。
1時8分、私はカシワの木の下を出た。17番のグリーン裏のスタンドに座り、再開を待った。
1時9分、パトカーと救急車のサイレン音。
「やられたな、誰かが・・」
私は雷の直撃はないと思っていた。ショックで倒れたか、逃げる途中で転げて足をくじいた、という程度ではと・・。まさか死者が出ていたなんて・・。このことを知ったのは、6時過ぎにプレスルームに戻ってからである。
3時半に競技再開。何となく気が抜けてしまった。
私は16番ティに行く気になれず、17番グリーン裏で尾崎の来るのを待った。
アッという間に雷はやって来た。そして騒ぎ切ると、静かに行っちまいやがった。
あの短時間の雷の襲来を予期するのは難しいと思う。空は徐々に暗くなるのではなく、本当にアレッと驚くぐらいの早さで暗くなり、あとはザーッと雨が降り、ドドーッと雷。
15番グリーンから、私は全力で走った。そりゃ、多くの人を追い抜いた。一人にも抜かれなかった。その私の足の速さでも450メートル逃げるのが精一杯であった。走れぬ人は木の下に逃げ込むしか、方法はなかったであろう。
若き人が亡くなったという。残された親は無念であろう。
翌日、プレスルームでは雷の話題でもちきりだった。
「バンカーの中が一番安全なんですよ。木の下、特に高い木は危ないんですって!」 そんなことは普段であれば分かりきったこと。しかし、あの激しき雨から逃れるのが先決だったのだ。
「風邪ひくと、取材できんぞ」と思ったから、葉の一番デッカイ木の下に逃げ込んだ。一瞬の時、私は一つのことしか考えられないというのが今般の雷で分かった。雷が落ちるなんて、考えもしなかった。落ちると分かってりゃ、バンカーの中に顔、突っ込んでる。しかし、体をさらけだすのもイヤなものであろう。やはり、車の中が安全か・・。
雷は去り、雨は細かくなり、木の下の3人それぞれに「グッドラック」と握手して別れたが、3人とも、手がやけに冷えていた。
金曜日、雷の落ちた木を見たが、細い若木だった。背丈も低かった。周りには高い木が沢山あるのに、落ちた地点より私のいた17番グリーンの右の方が遙かに高い地点なのに、どうして低い地点、そして細い木に落ちたのか、釈然としなかった。運がなかったと言ってしまえば、亡くなった方に非礼であろうか・・・。
これから先、取材時、雷の気配が少しでもあったら、私は臆病者と言われてもいい、ただ一目散に逃げ出す。雷からは逃げるが勝ち。
ところで、プレー好調で、途中まで10アンダーのスコアで来ていたとしても逃げれるか? いや逃げないな・・・私はしつこくプレーしてゆくだろう。私は打算的なのであります。
それにしてもヘーゼルティンの雷は怖かった。
|