ロープの中こそ棲むところ
中島常幸と私はゴルフダイジェストトーナメンのテレビ解説席に座った。アナウンサーは日本テレビの小川光明氏。ベテランである。
前日の夜、中島は辛口、野球の広岡達朗流でゆくと言っていた。私はマアマア流、要するに波風の立ちにくいおだやかさでゆくと言った。
2人とも、希望を抱き、勇躍して18グリーン裏の放送席に乗り込んだ。土曜日の放送はやっていても面白かった。
2人の間でもめたことといえば放映前、中島は「僕がメイン席に座るべきだ」と言い、私は「俺がメインだ。お前さんはゲスト」と言い張ったぐらいのもの。常幸は「それじゃあ!」とゲストの立場を主張して私服の背広を着てテレビカメラに向かった。私と小川氏は真っ赤なお仕着せのブレザー。
日曜日、「サンチャン、今日は私服を着てくれ。僕が赤いのを着る」と言って来た。よかろう、という訳で私はクリーム色の人工スキンレザーコートを来た。小川氏と常幸は制服のブレザー。よく考えてみれば、ユニフォームよりは私服の方が目立つ。常幸は私を目立たせようと配慮していたようである。何とも優しい男。
ただ、喋りの方は、常幸のワンマンショーであったし、私は方言丸出しのカントリースタイル。小川氏が2人の話をまとめるのに苦労していたということを後で知った。
楽しかった。何を喋ったのかはあまり覚えていない。テレビマイクの前に座ると、頭の中の思考よりも口が先に出ることを知った。
常幸は終わった後、えらくおとなしくなっていた。ジャンボが大逆転で勝ち、それにショックを受けていたようである。彼の一人言 -- 「僕の棲むところはロープの中。テレビはヤメタ!」。
私も同感である。かといって、私にロープの中に戻れる力量が残っているのか、はなはだ疑問ではある。
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