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ゴルフ野性塾スペシャル
No72... 追想のエッセイ(3)...(11/30)

ノーマンの筋肉

12月8日、午後も遅い沖縄万座ビーチ。日本ツアー最終戦、大京オープンに出場しているグレッグ・ノーマン、カーティス・ストレンジ、マーク・オメーラの3人がウェットスーツ姿で浜辺にやってきた。 彼らは水上ジェットスキーに乗った。鮮やかなものである。楽々と乗りこなしていた。かなりの手練と思えた。しばらくして、彼らは上半身素っ裸になった。3人とも、筋肉隆々の体ではなかった。柔らかい筋肉のようであった。

ノーマンの肩幅は広く、腰も張っていたが、逞しさよりは柔らかな体のように思えた。ノーマンは筋肉の塊のように言われていたが、そうではなかった。私は周防灘CCでのテレビマッチの時、トム・ワトソンと風呂に入った。

彼の体も柔らかい感じであった。張っている部分といえば、背筋の両側のタテの筋肉のみ。クラブを振らぬ時は柔らかく、スウィングの振りの中でのみ逞しさを出してくる。瞬時のヘラクレスのような体型であった。

ボディビルダーのような、ヘラクレスタイプは加速性の強いスピードは出せぬのであろうか。全体に柔らかみのある力士のような筋肉がゴルフの理想なのかもしれぬ。考えさせられたノーマンの裸姿であった。そして先入観の怖さも知った。

ジャンボのスコッチ

7月28日、私はオランダ・アムステルダムより車で30分の地にある閑静なる町、ハーレム市にいる。街並みは、街路樹と川のすき間に、オモチャの家が建ち並んでいる感じである。尾崎将司がオランダオープンに出場しているが、私もヨーロッパツアーと尾崎のゴルフに興味があり、全英の後、この国にやってきた。

昨日、尾崎と夕食をともにした。彼にご馳走になった。中華料理店での雑談が愉快に進み、8時30分、尾崎の泊まっているビーチホテルへと移り、話は広がった。スコッチウイスキーが出た。--- 11時30分「帰るぞ」と私。「まてよ、12時まで居れよ!」と尾崎。これでまた、飲み出した。

私は酒に弱い。コップ一杯のビールで頭の芯に酔いが回る。その弱い体に3時間もチビリチビリとではあるがスコッチを注いでいった。途中、尾崎に何を喋ったのか、彼が何を言っていたのか、定かに覚えていない。私は重く酔い、尾崎も軽く酔った。彼の盟友、佐野木さんだけは平然としていた

夜もふけた12時15分、ホテルを出た。星の見えない、低い空だった。タクシーでホテルへ戻り、深夜営業の一階カフェテリアで冷たい水をポットで貰い、一気にコップ三杯飲んだ。胃がスーッとした。そしてそのまま、寝入ってしまった。どれくらい時間が経ったのかは分からぬが、気がつけば酔払った若者達が騒いでいた。私は部屋へ上がり、頭から熱いシャワーを浴びて、ベッドにもぐり込んだ。そして今朝、10時に起きた。

尾崎のスタートは10時30分。4番で追いついた。7番ティ横の仮設売店でシボリたてのオレンジジュースを二杯飲んだ。旨かった。尾崎と佐野木さんに運んだ。尾崎は一気に飲んだ後、ニコッと笑い、「30年もののスコッチのお礼かネ」と言いよった。昨夜のが30年ものの上等ウイスキーなんて、酒に興味のない私に分かるはずもない。子供に懐石料理を食べさせたようなもんだ。

「味は分からんが、まだ酔ってるよ」 --- 体がやけに重かった。「このオレンジジュースは旨いな」と尾崎がホツリと言った。

彼は私を「田舎もん」と言う。自分自身のことを「成り上がり者」と言う。成り上がり者や善し、田舎者や善し! 超一流と三流の違いはあれど、ゴルフの世界で他人に迷惑かけずに生きている。尾崎には世界の土俵で頑張って欲しい。本当に彼は善い男なのである。私は尾崎の性分が好きだ。あす、私は日本に帰る。20日間の旅であった。尾崎は米国へ行く。


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