プロゴルファー斉藤愛璃 成長への歩み
第1回 トレーナーが語る斉藤愛璃
2006年、斉藤愛璃が高校1年生の頃からフィジカルトレーナーを担当している、トータルゴルフフィットネス代表・菅原賢さんは、出会った当時を次のように振り返る。「本当に体が細いし、筋肉も無い。下半身の筋力は平均レベルまでは達していましたが、体幹と上半身の筋力が非常に低かった印象でしたね」。
「筋肉の質やポテンシャルでいえば、かなり低いとは思いました」というのが、多くのトップアスリートの身体と対話を続けてきた菅原さんの第一印象。下半身の筋力も、「持久力の方が優位に立っていて、瞬発系の動きに課題がありました」と、取り組むべき課題は多かったという。
そして現在、その評価は大きな変貌を遂げている。「今では、女子プロゴルファーの中でも一番重いウエイトを持ち上げられる。瞬発力も上がり、僕の知る限りではトレーニングの成長度でいえば一番に近いものはあると思います」。その進化の過程は、決して安穏としたものではなかった。菅原さんは言う。「ゴルフに一番大切な継続力、コツコツと努力できる素質が、彼女にはメチャメチャあったんです」。
この“継続力”は、斉藤自身も1つの強みとして捉えている。「ジュニアの頃から、決めたことはずっと出来るタイプではありました。毎日やるということが大事。そういうことが、今の力になっているという実感はあります。一生懸命に努力をすれば、やっぱり着実に成長していけるということは、自分の中で実感をしています」。もともと、フィジカル面では決して恵まれていないことは自身も分かっている。分かっているからこそ、トレーニングで補わなくてはならない。問題は、その地道な努力を長く継続できるか、否か。斉藤は、子供のころから根っからの前者であった。
今年の国内女子ツアー開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」を制し、ツアー初優勝を飾った姿を見て、菅原さんは感慨に浸っていた。「ゴルフはやっぱり、毎日コツコツできるという素質が勝つんだな、ということを、逆に僕が教えられた。今では、僕の中で自信になっています。なにせ、最初はぜんぜん動けなかったのですから・・・」。
とはいえ、菅原さんの目から見ても、まだまだ斉藤の肉体は発展途中。その上で「伸びしろはまだまだ、かなりあります」と将来に向けて目を細めた。「自分で考えられるようになったことが、大きな変化。僕が思うトップ選手になる条件の1つとして、本人のオリジナルメニューができていかないと強くならない。これから、まだまだ伸びると思います。将来のビジョンも、世界を見据えたものへとシフトしている。斉藤も、淀みなく目標を掲げた。「来年は賞金女王を狙っていきたいと思います。将来的な夢としては、やっぱり宮里藍選手のようにアメリカツアーに出て、向こうで活躍することです」。
菅原さんが「4年前は、正直いって思ったこともなかった」と振り返る世界への扉。「今年の結果をいかに来年に繋げて、将来的に世界へと羽ばたくか。今は、そこまでのビジョンを持ってともに行動をしています」。世界へと続く道のりは狭く険しいものではあるが、“コツコツと継続できる才能”とともに、これまで通り一歩一歩、着実に歩みを進めてゆく。
■ 菅原賢 ■
トータルゴルフフィットネス代表、エグゼクティブパーソナルトレーナー
<経歴>
岩手県出身。東京法科学院スポーツビジネス学科卒業後、都内のスポーツクラブのインストラクターを経て、パーソナルトレーナー・運動療法士の資格を取得し独立。2002年からJGTO(日本ゴルフツアー機構)ツアートレーナーとして、ツアーに帯同。2007年には賞金女王に輝いた上田桃子プロのパーソナルトレーナーも務める。現在も日本オリンピック協会(JOC)医科学強化スタッフとして、多くのアスリートのフィジカルコーチを務めている。主な著書には、「ゴルフボディの作り方」「ゴルフボディをつくるためのストレッチ&トレーニング」「ゴルフのためのヨガ」がある。
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