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週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。 内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。 |
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週刊ゴルフダイジェスト 11/12号 |
2002年更新 |
プロとJGA間の溝をますます深めた
日本OP最終日のルール・トラブルの真相
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日本最高峰の試合のはずの日本オープン(下関GC)最終日に、翌日多くのスポーツ紙が優勝者の記事より多くのスペースを割くほどの前代未聞のルール事件が起こった。当事者は3日目を終えて首位に2打差4位と好位置につけていた今野康晴、同伴競技者は佐藤信人。この2人が、試合後、長時間にわたりその組の帯同競技委員で裁定を下した田村圭司氏に猛抗議した。日本のゴルフ界を取り仕切るJGA(日本ゴルフ協会)主催の試合で起きたこの事件、一体何がまずかったのか?
問題となったのは、11番パー4。今野のティショットが右の林方向に飛び、行方がわからなかったため、今野はボールを探し始めた。ルールでは球探しに費やせる時間は5分間。まもなく、今野はロストボールのつもりで打ち直しにティグラウンドに戻ろうとした。その時、計時していた田村氏が「まだ1分しか経ってないから探せば」と言ったため捜索を続行。それでも見つからないので再びティグランドに戻りかけたとき、ギャラリー整理のロープより内側にある木の、高さ約3メートルの場所でひとつのボールが発見された。今野にはそれに自分の使用球と同じ“タイトリスト3番”の文字が見えていたという。だが、田村氏は「見えない」と言ってギャラリーから双眼鏡を借り、球を確認し始めた。
事件が起きたのはその時だった。その場にいた中継局NHKのラウンドレポーターの羽川豊が、田村氏が脇にはさんでいた傘を手に取り、木の上のボールに向かって投げると、ボールは木から落ちてしまった。
この時の様子は、それぞれに言い分が異なるが、羽川が田村氏の傘を投げ、球を落としたということだけは事実。落ちてきた球を見た田村氏は、今野に自分のものかどうかを尋ね、そうであったため、その場で2打罰が宣告された。
2打罰について、競技委員側の説明を聞こう。まず局外者である羽川の行為ではあったが、これを今野が見ていながら制止しなかったため本人が行ったものと同じとみなされ、規則18-2a(別項)に抵触し1打罰。さらにアンプレヤブルの処置でプラス1打罰。合わせて2打罰というわけだ。
ここで問題となるのが (1)局外者である羽川の行為が競技者である今野の行為と同列にみなされている点。 (2)「あっと言う間に(羽川が)傘を投げた」と田村氏自身も止める暇がなかったことを主張しているのに、同様に止める暇もなかっただろう今野に対して「アンプレヤブルを宣言しないで(羽川の)行為(=規則上許されている以外の場合にインプレーのボールに触れる:前出規則18-2a)を見ていた」と言っている矛盾点。 (3)田村氏の主張とは別に、今野、佐藤は羽川が傘を取ってから投げるまでに時間があったと主張している点だ。
「局外者の行為を競技者本人の行為と同じと判断」
このうち(2)と(3)について、話は双方でまったく並行線をたどり、真相はわかならいが、問題は(1)のルール解釈である。
JGAの規則委員でルールにもっとも精通しているとも言われる田村氏は当日の会見で「私は正しく処置をし、正しく裁定をしたと思います」と言い切っている。ゼネラルルールにはもちろん、裁定集にも記載のない“局外者が球を動かすのを競技者が見ていながら制止しなかったということは競技者本人が行ったと同じ”とする今回の判断についてJGAは「現場での状況判断につきるが、最終的には『公正の理念』に照らし合わせての判断」とやや苦しい説明をしている。
裁定が下った以上、選手の立場からはどうすることもできないが、「我々の立場は競技者の味方」という田村氏の言葉とは裏腹に、選手間に蔓延するJGA競技委員会への不信感はぬぐえないようだ。
一方、インプレーのボールを断りもなく動かした羽川への批難の声も大きい。JGA広報参与でゴルフジャーナリストの土井新吉氏も「なぜ羽川君がああいうことをしたのか? 選手もキャディも帯同競技委員も何もしないのに」と手厳しい。
これに対し、当の羽川は「こういうことは4人揃って話をしないとどんどん食い違っていってしまう。裁定はもう下ったんだから」と口を閉ざしていたが、徐々に重い口を開いた。
「俺を『局外者』だと考えれば何でもないじゃない。それぞれの感じ方に違いがあるから主張する事実関係も違ってくる」と言い、田村氏の発言の矛盾については「まあ、そういうことだよ」と今回の事件のポイントであることを匂わせた。
その上で、自分が球を落としたことでペナルティがついた事については、今野に謝罪したことを認め、手を出すべきでなかったという批難に対して「そう。反省してるよ」と口にした。
今野本人は「僕もルールを知らなかったので」と球を落とす前にアンプレヤブルを宣言することについて無知だったことを告白している点が弱みではあるが、自ら球を落としたわけではないため、同情の余地は十分にあるだろう。
競技委員の裁定は絶対で、競技者が自分の球に対し責任を持つのがゴルフの基本。だが、今回の事件は、各々の主張が食い違う水掛け論が展開され、結果的に今野が貧乏クジを引いた形になったが、ひとつ言えるのは競技委員の在り方についてだ。
「87年の全米オープン最終日、首位に立った直後の中嶋常幸の球が巨木の上から落ちてこなかった。この時の帯同競技委員は“君がよければこれから人を登らせてボールを捜させる。もし落ちてきた球が君のだったらアンプレヤブルにするか?”と中嶋に尋ね、中嶋も納得して木が揺すられた。結局、球は落ちて来ず、ロストになったが、これこそ競技委員のあるべき姿。優勝争いをしている選手は、ルールのことなど頭から飛んでいってしまっていることが多い。それを助け、余計なトラブルが起きるのを防ぐのが競技委員の役割ではないか」と土井氏が例を引いてくれたが、まさに好対照。
3日目に誤ったピン位置を知らせた事件の直後だけに、かねてから何かにつけ対立していたプロとJGAの間の溝はますます深まったことは間違いない。
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