アーニー・エルスが、3年9カ月ぶりにアメリカ本土の試合に優勝した。米PGAツアーの公式戦では3年9カ月ぶり。と聞くとちょっとびっくりするかもしれないが、米ツアーではなんと47試合もゴルフの女神に見放されていたのだ。この間、エルスに何が起きていたのか──。
エルスは、先のホンダクラッシックで優勝し、ようやく自分自身の“3年計画”が動き出したようだ。
実はこの3年計画というのは、2006年の末にエルスが発表したもので、メジャーをはじめとするすべての試合で優勝するか、優勝争いを繰り返し、ワールドランキングでタイガー・ウッズを抜いて、トップの座に返り咲こうというもの。
ある意味では、自信満々で、昨シーズンをスタートさせたのだが、メジャーはおろか、米ツアーでも勝てずにメンタル面で躓いてしまっていた。
実際には、エルスは昨シーズンはヨーロッパツアーで2勝しているし、全英オープンで4位タイ、全米プロで3位タイとそこそこの成績は上げている。
しかし、例えば、昨年のベライゾン・ヘリテージでは、トップでフィニッシュしたものの、ブー・ウィークリーが、最終の17、18番ホールでチップインバーディを決めて栄冠をさらわれたり、南アフリカでのダンヒル選手権では、最終ホールでトリプルボギーの8を叩いて、優勝を逃している。
今年のドバイデザートクラシックでも、4打差のリードがあったにもかかわらず、最終18番での池ポチャなどで、ウッズに敗れるなど、完全にツキに見放された格好だった。また同時に、メンタル面でも問題を抱え込んでしまっていたのだ。
そして、先のWGCマッチプレーでは、第1回戦で、6&5、わずか13ホールをプレーしただけで、敗れてしまっている。
ホンダでは最終日に猛チャージで、最終組より1時間近くも早くホールアウトしたにもかかわらず、「他のプレーヤーの動向などテレビで見たくない。この前に中継を見たときは、ちょうどウィークリーが2ホール連続のバーディを決めて、私を打ち負かしたときだった。だから、今回は見たくないんだ」とスポーツ心理学者を連れて、練習場で時間を過ごしていたのだ。
ホンダの直前には、「とにかく勝利が必要だ。プレッシャーの中でもいいショットが打てる自信がつくように、(マスターズの前に)2~3勝はしたい」とも語っていた。
調子そのものは悪くないだけに、何か自信をつけるきっかけのようなものが必要だったというわけだ。
だからこそ「多くの試合で勝利を逃して、やっと自分に運が回ってきた。この勝利は格別だ」と優勝インタビューで語っていたのだ。
エルスもいまや38歳。一昨年に作った3年計画というのは、つまり、40歳までにトップの座に返り咲くというもので、エルス自身も、プレーヤーとしての最後のピークに差しかかっていることを感じているのだろう。
今回の勝利でワールドランキングもタイガー、ミケルソンに次いで3位となったエルス。この勝利で吹っ切れて、強いエルスが戻ってくるのを期待したいところだが、問題はやはり、絶好調のタイガー・ウッズの存在だろう。
本当の意味で、エルスがメンタル面で立ち直るには、やはりタイガーの出場する試合で、彼に打ち勝って勝利しなければならない。もちろん、ワールドランキングのトップになるには、メジャーに勝たなければならない。
そうした意味では、タイガーが年間グランドスラムを狙う今年のメジャー、そして彼がJ・ニクラスと並ぶ5勝目を狙うマスターズが、エルスにとっての一つの試金石となりそうだ。
もしマスターズにエルスが勝てれば、彼の3年計画もかなり現実味を帯びてくる。が、ここにきて、トッププレーヤーたち皆がマスターズに照準を合わせてきているだけに、難関になることは間違いがない。
その難関を制すれば、エルスの道は開けるはずだ。今回の勝利は、そのための準備が整ったということなのかもしれない?
|