今年4月、アリタリア•イタリア航空が成田〜ヴェネツィア便を就航したのをご存知だろうか。世界的にも人気の高い都市ヴェネツィア。アドリア海を望むそこは“水の都ベニス”という言葉でも知られている。これで、ミラノ、ナポリ以外にも直行便が増え、イタリアへさらに行きやすくなったのは間違いない。
現に6月にこの便を利用させていただいたが、イタリア北東部での仕事には便利であった。出発は日本のお昼、到着は夕方といったタイムテーブルはストレスを最小限に抑えてくれる。
便の就航理由は、当然日本からの旅行者が増えているから。そしてその背景には日本でのちょっとしたイタリアブームが影響しているに他ならない。
例えばゴルフウェアがそうだ。オシャレ系ゴルフアパレルの代表格であるカッパゴルフもあれば、PAR72 (パーセッタンタドゥエ)なんかも最近目立ってきた。それにまだまだこれから上陸するブランドも多いと耳にする。
これらの特徴は機能性とデザインの融合だろう。ゴルフウェアとしてのスペックだけではないのがイタリアンゴルフウェアの特徴となる。
ちなみに、イタリアでもゴルフ人気は高く、美しいゴルフ場が長靴のほぼ全域に点在している。中でも北イタリアのロンバルディア州は盛んで、ゴルフ場の規模もゴルファー人口もイタリアトップだそうだ。
広大な平原と丘陵地が関係しているのだろう。そう、ロンバルディアはアルファロメオ発祥の地。このブランドとゴルフにはそんな関係もあった。
さて、アルファロメオである。このブランドが送り出すクルマもまた、見事に高い機能性とデザインセンスを備え持つ。一見してデザイン優先とも思われそうなインパクトあるものが多いが、それだけではないのがアルファロメオである。
それはこのブランドの長い歴史が証明する。100余年の年月の中、彼らはつねにそれを実践してきた。なんたって1910年の設立翌年には新型車をタルガ・フローリオ(シチリア島で行われる公道レース)にエントリーさせ、好成績を残している。それは当初から技術力が高かったことを物語っている。
1913年頃にはツインカムシャフトやツインスパークイグニッションを採用しているのだから恐れ入る。
さらに言うと、1920年代は今日のF1にあたるグランプリレースで大活躍。1925年にはワールドカップ•チャンピオンにも輝いた。
8気筒エンジン+スーパーチャージャーのアルファP2は“無敵”と賞賛されたほどだ。1928年にはミッレミリアでも初優勝を手にした。
デザイン面でも余分なものを削ぎ落としたレーシングカーの美しさに人々は魅了された。このレースでの輝かしい功績は、乗る者のモチベーションを高めてくれる。つまり、競うスポーツであるゴルフとの相性がいいということだ。
2つの大きな世界大戦を乗り越えて、アルファロメオは戦後も魅力的なクルマを数々輩出した。その中で初めて女性の固有名詞が与えられたのが、1954年にリリースされた初代ジュリエッタである。
まずはベルトーネがデザインしたクーペでデビュー。その美しいスタイリングと俊敏なハンドリング、素晴らしいパフォーマンスが人々にウケ、大成功を納めた。そして次にサルーン、スパイダーを追加、さらにはそれをベースにしたザガート製SZも登場し、歴史に残る傑作と言わしめた。
ちなみに、この成功の理由のひとつにジュリエッタというネーミングがあるとも言われる。女性カスタマーの門戸を開いたことは否めないからだ。その後ジュリエッタは1961年に10万台を記録。工場で行われたセレモニーには、同姓の大物セレブリティ、女優のジュリエッタ•マジーナが登場し、プレゼンターをつとめた。
2代目ジュリエッタが登場したのは1977年。アルファロメオのレーシング部門“アウトデルタ”がサーキットで活躍していた頃だ。このクルマは長めのノーズと高くて短いリアデッキを用い、卓越した空力特性を手に入れている。サーキットからのフィードバックだ。時代の半歩先行くスクエアなボディと高い運動性能がヒットの要因となったのは、言わずもがなである。
といった流れを元に現行型ジュリエッタが生まれた。同じ名前であってもその時代毎のデザイントレンドで成り立っているのが特徴だろう。デザインのある部分を継承するのではなく、その時代に見合ったラインが引かれた。
その他の共通項は、世界的に見て女性の指示を得ていること。セレブリティの彼女たちにとっても、ジュリエッタは魅力的なモデルなのである。
ジュリエッタに乗って颯爽とクラブハウスに登場するシーンは、きっとどの時代に見ても格好良いと感じられるはずだ。時代を超えて愛される、という意味では、クルマもゴルフも、相通ずるものがあるのかもしれない。
1964年生まれ、東京都出身。広告会社に勤務の後、自動車雑誌「カー・イー・エックス」(世界文化社)副編集長、同「アメリカンSUV」(エイ出版社)編集長などを経て、フリーランスとなる。その後、副編集長として男性雑誌「レオン」(主婦と生活社)の編集に従事。現在は、自動車評論家として、主に自動車関連の雑誌やウェブサイトに寄稿するなどしている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カーオブザイヤー(2008-2009)選考委員。