長年にわたり感覚が支配してきたパッティングの世界に革命を起こした男がいる。その名はデビッド・オー。
ジャスティン・ローズをはじめ50人以上のツアープロにパッティングを指導してきたデビッド・オー。他のコーチへの指導や、ときにはアマチュアへのレッスンもするというオーの“米国最先端”といわれる理論とはどんなものなのか。
多くのコーチのスウィング理論を取材してきた吉田洋一郎プロが、ノースカロライナ州のレッスンスタジオを訪ね、オーの『必ず入る6つの教え』を聞いてきた。
●CHAPTER 1
科学の目で見たパッティング
パットで確認すべき6つのルール科学の目で見たパッティングとは。
「私はパッティングの分野に特化したコーチングを行っています。それは私自身がパッティングが上手ではなかったから。若いころプロとしてプレーしているとき、ショットはそこそこでしたがパッティングはまるでだめでした。そこで多くのことにチャレンジをしたのです。だからこそ良くないパッティングの原因を見つけることができるし、良い方向に導く術も持つことができたのです」
そんなオーのレッスンではパターの正しい動きを定義するために、6つの項目をチェックしている。
「私がパッティングをチェックするときは、SAMという測定器を使い、主に6つの動き(図①を参照)を確認していきます。これはツアープロでもアベレージゴルファーでも同じです。この6つの動きを理想値に近づけていくことで、より正確なストロークを手に入れることができるのです」
※SAMはパッティングの動きを可視化するための高精度測定器で、欧米のコーチの多くが使用している。
体の動きよりもパターの動きが大切だということを理解しよう。
●CHAPTER 2
アドレスとフェース向き
パッティングは準備が7割
パッティングを科学的に分析すれば、6つのチェック項目に分けられるというオー。その中でももっとも重要なのがフェースの向きだという。
「パッティングは動きが小さいため、ショットのようにスウィング中に瞬時にタイミングを調整したり、シャフトのしなる力を使ってアジャストすることができません。つまり動き出してしまったら、細かな修正が利かないのです。だからこそアドレスでのフェースの方向性が重要になります。フェースの向きはもっとも重要な要素ですが、同時にもっともずれが生じやすいともいえます。1日に100球近い練習パッティングを、ほぼ毎日つづけるプロでも、毎回スクェアに構えることはできません。体調や体のゆがみなどが原因で『スクェアな感覚』はいとも簡単に変わってしまいます」
「感覚を追い求めること自体が間違っている」とオーがいうように、“スクェアの感覚”は、実はとてもいい加減で儚いもの。人間の感覚は体調や時間で変化する。だからツアープロたちはヘッド軌道やフェースの向きを毎日、チェックするのだ。
毎回変わってしまうからこそ、感覚に頼るのではなく道具を使って、フェースがスクェアな状態かどうかを確認しよう。※図②を参照
●CHAPTER 3
ボール位置と目の関係
両目のラインが方向性を決める
パッティングでもっとも重要なフェースの方向性。オーはアドレス時に、そのフェースをスクェアな状態にするには、目線の合わせ方が重要だという。
「今も昔も左目は、体の正面から見たときボールの上になくてはなりません。これは基本中の基本です。この左目とボールの位置も、先ほどのフェース面の向きと同様に日によって変わってきます。できればラウンド前には毎回確認したいところです。しつこいようですが『感覚』に頼りすぎるのは危険なのです」
この左目とボールの位置の確認が基本となるが、フェースの方向性を正しく保つためには右目も含めた目線のイメージも重要になるのだそう。「アマチュアを見ているとセットアップしてから目標を何度も見るため、そこでフェースの方向性に狂いが生じてしまっていることが多くあります。目標を見れば見るほど両目のラインが右側を向いていき、結果、フェースが開いた状態でストロークが開始されてしまうのです」
パッティングは、パターが正しく動くことが重要。アドレスでたくさんのことを意識している人は、それが悪い方向に働いている可能性もあるので、目線だけにしぼりセットアップすることで、ストロークが向上する可能性があるので、ぜひ試してほしい。※図③を参照
●CHAPTER 4
開いて閉じるフェースの動き
フェースは体の回転に合わせて開閉するのが自然な動き
パッティングのストロークでは、アドレスで正しくセットしたフェース面を、いかにそのままの角度でインパクトに戻すかが重要。
「理想は、アドレス時とインパクト時のフェース面の角度が同じになることです。このようにいうと、ストローク中、フェース面をずっとターゲットに向けて動かすことをイメージしがちですがそれは間違っています。まず前提として、パッティングのストロークでは上半身が回転をするため、腕や手首を固定するとヘッドの軌道は必ず円弧を描きます」
フェースがいつも真っすぐに動く、ストレートなヘッド軌道を作るには、体の回転に加えて、腕や手首といった本来使わなくてもよい部分の動きを加えなくてはならない。
「体の回転に加えて腕や手首の動きを入れると、その分、稼働する箇所が増えて動きが複雑になるため、インパクトでフェース面をスクェアに戻す難度が上がってしまいます。パッティングは正確性を求められる小さな動きなので、再現性を落とすような複雑な動きは、できるだけ排除しなくてはなりません」
体の回転に合わせて自然にフェースが開閉する動きを身につけることが、スクェアなインパクトを作る上で、もっとも再現性の高い動きなのだ。※図④を参照
●CHAPTER 5
クラブ軌道は円のイメージ
やさしいのは支点が動かないショルダーストローク
ストロークの際には腕や手といった繊細で不安定な動きになりやすい箇所を使うのは、できるだけ避けたほうがよい。クラブを動かすのはあくまでも肩や胸などの大きな筋肉だ。
「手先や腕は、箸で小さなものをつかんだりする細かい作業には向いていますが、パターなど重たいものを安定的に動かすには繊細すぎます。ターゲットに対してしっかりとアドレスをセットできたとしても、テークバックで本来のクラブ軌道を外れてしまったり、インパクトでフェース面の角度が変わってしまう可能性があります。背骨を軸にし、両肩を入れ替えるように動かすショルダーストロークが、もっとも安定してクラブを動かすことができるのです」
ショルダーストロークはあくまでも背骨を中心とした回転運動だが、つい肩を動かしてしまうアマチュアもいる。
「肩の回転ができない人は、胸の真ん中を支点に、胸板のあたりを意識して回転するとよいでしょう。肩より大きい胸板を意識することで背骨の軸をぶらさずに上半身を回転させることができるようになります」
イメージを作るためには、長尺パターのようにグリップエンドを胸の中心につけて、素振りをする練習がおすすめ。※図⑤を参照
●CHAPTER 6
転がりのいいボールを打つ
理想のインパクトはほんの少しアッパー
オーはグリーンの速さにかかわらず、転がりの良い球を目指している。
「アッパーブローに打つことで、転がりの良い球を打つことができます。ボールに順回転がかかりスーッと伸びていくのです」
なぜならカップに対して絶対にショートをさせないためだ。カップに届かなければそれだけで、カップインの可能性をゼロにしてしまう。
「カップの底にカコンと落ちるようなタッチで打つのは、2つのリスクが伴います。1つは少しでもタッチが弱くなるとカップに届かなくなることです。優勝や予選のカットなどがからむ重要な局面では、体や腕がプレッシャーで動きにくくなります。そういった状況でも決してショートしないよう、転がりの良い球を打つ必要があるのです。そしてもう一つのリスクは、ゆっくり転がるほど芝目や傾斜の影響を受けやすく、ラインから外れる可能性が高くなることです」
手首の角度や左目とボールの位置関係が変わらなければ、自然とアッパーにとらえることができる。※図⑥を参照
●CHAPTER 7
カップインの距離感とタッチ
強・中・弱3つのタッチを使い分けよう!
これまで5つのポイント挙げて、パッティングの正しい動きを確認してきた。最後にオーが教えてくれるのは、パッティングのなかでもっとも習得が難しいという「タッチ」についてだ。
「これまでいくつかの項目で『感覚は日々変わりやすいものなので、頼るべきではない』という話をしました。ですがタッチに関してはどうしても、感覚寄りの話になってしまいます。」
オーはボールの転がる速さをイメージして、自分のタッチに基準を設けることが重要だという。
「感覚にも『基準』を作ることが重要です。どんな距離を打つときも自分の中で、弱い、中くらい、強い、という3つのタッチを持つようにしてください。アイアンショットでも、中途半端な距離に対して、若干強さを変えて距離を調整することがあると思いますが、それと同じことをパッティングでも行うのです」
3パターンのタッチを習得するため、家のパターマットでもできる練習方法を教えてもらった。ぜひ試してほしい。※図⑦を参照
『レッスンの匠 パットのカリスマデビット・オーの「必ず入る6つの教え」』は、チョイス2018年新春号に詳しく掲載されています。