革命的新理論や発明は、常識にはとらわれない
新しい物の見方から誕生している。それはゴルフ界においても然り。
本流さえも凌駕した、独自の視点と科学の目をもつ6人の男たちを紹介する。
【introduction】
始まりはベン・ホーガン
1957年の著書『モダン・ゴルフ』で初めて「スウィングプレーン」という概念を強調したのがホーガンだ。ホーガン以前は、ねじれやすく、しなりも個別に異なるヒッコリーシャフトでミート率を高める方策として、リズムやタイミングを重視。ホーガンのプレーン理論は、スウィングの反復性を高める概念として、現在でも重視されている。
ゴルフにおける「異端者」は、独自の視点と飽くなき探求心から、常識を疑うことで真理に近づけた「研究者」たちであるように思う。
今回は、ゴルフスウィングにおいて、本場である欧米の「正論」とは異なる視点で持論を展開した日本の『研究者』6名を紹介しよう。
File No.1 昭和初期のスウィング研究家
前原多助
ヘッド軌道から導き出した「軸固定」と「ハブ動作」
昭和初期、前原多助はアマチュアとして当時の一流選手のスウィングを研究。スウィングに関する欧米の著書200冊以上、文献4000件以上を読破し、その40年に渡る研究成果をまとめたのが著書『こうすれば必ず当たる』『こうすれば必ず入る』『こうすれば必ず乗る』の3部作だ。
前原は、スウィングの本質は円運動であるという視点に立ち、名手のスウィングの共通項として、基本原則は2つあるとしている。
スウィングの動力源として胴体の筋肉を考えた場合、左肩をスウィングプレーンと同じ方向に動かす意識だけで、腕、手、腰、脚はワンピースで動き、効率よくパワーを発揮できる。ダウンスウィングも同様で、左肩をトップから180度(以上)回転させる動きで振り切ればよい、という。
これがスウィングの第一の原則であり、これを正確に実行するためにハブ(スウィング軸)を一定不変に保つことが第二の原則であるとしている。
File No.2 野球からゴルフへ。
新田恭一
曲げる、伸ばす、ねじる。動作には正しい順序がある。
野球人として大成しつつ、ゴルフでも昭和6年(1931)に日本アマで優勝。80歳を超えてもスウィング理論の研究に明け暮れ、雑誌の切り抜きなどを貼ったゴルフ理論の「間違い帳」をため込んでいたという新田恭一。
「人間の動きというのは3つしかない。曲げる、伸ばす、ねじる。ただ、その3つの動きの順序、たとえば野球なら球をはなす、ゴルフではクラブを振る、そこに至るまでの運動の順序が重要なわけです」(新田)
順序を間違えるからパフォーマンスが下がるだけでなく、ケガや故障が生じる。
新田恭一の骨子は、身体の動かし方の正しい『順序』にあるのだ。
File No.3「完全スクェア打法」の伝道士
後藤 修
「新田理論」をインパクトから「逆算」で解説
後藤修はプロ野球選手を経て、新田恭一のスウィング理論(野球、ゴルフ)を学び、中嶋常幸やジャンボ尾崎、鈴木亨らに「完全スクェア打法」のエッセンスを伝え、プロコーチとしての実績を積み上げた。
後藤のスウィング解説の特長は、もちろん「完全スクェア打法」の観点がベース。「スクェア打法とは、腕とクラブの関係を変えずに、いかにボディターンとフットワークを使ってウェートシフトするか、にかかっています」(後藤)
新田が身体の動きの順序から説くのに対し、後藤はクラブの「挙動」から必要十分な体の動きを読み解くのが、後藤修の理論だ。
File No.4 夢の飛距離を追求した男
若林貞男
稲妻のごとき電光石火のスウィング
1980年代に彗星のごとく現れた「Z打法」。このネーミングは、提唱者のレッスンプロ、若林貞男のスウィングを目の当たりにした『月刊ゴルフダイジェスト』の編集長(当時)によるものだ。小柄な中年プロが、電光石火のスウィングで300ヤード飛ばすのを見て、強く感銘を受けたことによる。
「スピードの秘訣は腰の使い方。アドレス時から“切って”エネルギーを充填し、バックスウィングでさらに補給。ダウンではそれを一気に解放するだけでヘッドが走り、飛ばせるんです。腰や肩を“回す”とエネルギーは逃げてしまいます」(若林)
体を回さない、腕も振らない、“切れ”と“突き”が「Z打法」なのだ。
File No.5 理系のゴルフの第一人者
栗林保雄
スウィングのブラックボックス「ピストンスナップ」の解明
栗林保雄は30歳からゴルフを始めたアマチュアだが、定年退職後、スウィング研究に専念。
効率よく上達するために「スウィングの必須動作」と、その「習得方法」に取り組んだ結果、インパクトゾーンの「見えない動き」の解明に至った。
「スウィングの三大要素は『加速、軌道、打面の開閉」であり、すべての「動作」はそのために行われます。三大要素を三位一体でコントロールする「仕組み」がわからないままでは、効率よく上達することは到底できません」(栗林)
栗林は、スウィングの他の要素を比較しながら無駄な動作を排除し、ヒッティングに必要な動作を確定したという。それが「ピストンスナップ」だ。右前腕を胸の中央前方へねじりながらピストンのように突き出し、同時に右手首でスナップを利かせる。
もちろん「ピストンスナップ」は単独では成立しない。「手・腕・肩を胸(胸郭)が回転運動で一括して動かしていることが必要です」(栗林)
File No.6 逆転のスウィング論
竹林隆光
クラブ設計家が思い描いたスウィングの未来形
日本を代表するクラブデザイナー、竹林隆光。ゴルファーとしても日本オープンや香港オープンでローアマを獲得するほどの腕前だった。意欲的なクラブを開発し、ブームに火をつけてきたが、その根底には「人間が使う道具」という考え方があった。
「人が振るのに、大変すぎるものはダメ。難しいクラブを使えば上達する、というのはウソ。やさしいクラブを使うほうが絶対に上達します」(竹林)
やさしいクラブでも打てない理由は「慣れ」だという。
「人間はすごくて、どんなクラブでも慣れるとそこそこ打ててしまいます。だから、逆に慎重に選ばないといけないんです」(竹林)
科学の目で考え、道具としてのクラブを造る。そしてスウィングは、クラブの進化とともに変化していく。それが竹林の発想の原点だ。
『レッスンの匠』は、チョイス2019年夏号に詳しく掲載されています。