ゴルフ場数は世界11位、でもゴルフ理論は最先端
【introduction】
「ゴルフ後進国」と言われてきた中国が近年大きな変化を遂げている。
その進化のスピードは世界随一だ。
革命的な成長を支えている中国のゴルフ理論に迫る。
CHAPTER 1
【中国ゴルフ事情】
『中国ゴルフ』はまだ始まって30年程度
卓球や体操といった“お家芸”だけでなく、今やバスケットボールやバドミントンといった種目でも、世界トップクラスの選手を輩出する中国勢。しかし、ことゴルフに関しては、長らく「後進国」の位置に甘んじていた。最大の要因は「スタートの出遅れ」だ。
中国は今、猛スピードで追いつき、追い越そうとしている。富裕層を中心にアマチュアのゴルフ人口は増え、また国内ツアーも急速に整備が進んでいるのだ。プロでは2003年にチャン・リャンウェイが欧州ツアーで中国人として初めて優勝を遂げたのを皮切りに、2012年にはフォン・シャンシャンが全米女子プロゴルフ選手権でメジャー優勝を果たした。
飛び出しトップクラスで活躍するプロは、まだ少数だ。しかし米LPGAツアーでは、フォン・シャンシャン以外に2人の中国人選手が賞金ランク位以内に入るなど、あとに続く選手も出始めてきている。
CHAPTER 2
【中国ゴルフ発展の理由】
伝統がないからこそ、最新理論を身に付けた
畏怖すべき憧れの対象、目標とすべき技術の最終到達地点はスポーツの発展には欠かせないピースだ。しかし歴史が浅いこともあり、中国のゴルフ界にはそのようなカリスマは存在しない。
そこで彼らは、技術論やコーチングを“輸入”することにし、成功経験をともなう積み上げられた“経験則”がなかったので、上達するための効率的な“方法論”を重視したのだ。しかもそれらは世界トップレベルで用いられる最新のものだった。
2000年代前半にレッスンの権威、デビッド・レッドベターが上海にアカデミーを創設すると、その後に続いて多くの著名なプロコーチの後に続いて多くの著名なプロコーチが中国へ進出していった。
中国で次世代のスターと期待されるセキ・ユウティンはマイケル・ディッキーという、上海を拠点とするコーチに師事している。彼は10代のころからプロのコーチのレッスンを受けていたため、『教わったことを咀嚼する能力』に長けている。
これはスウィング技術やギアがアップデートされたとしても、必ず必要になる能力だ。この汎用可能な方法論を重視したことこそ、中国ゴルフが急速に成長している最大の要因といえる。
CHAPTER 3
【中国プロの2トップ】
世界一静かなスウィング
フォン・シャンシャン
2017年には女子の世界ランク位になるなど、名実ともにトッププレーヤーの一人となったフォン・シャンシャン。レッドベターアカデミー出身のゲーリー・ギルクリストというコーチに長年師事している。
安定した下半身に加え、腕と体の同調性が高いため方向性が安定する。日米問わずに高成績を残せているのは、この動きによるショットの安定性が大きい。
世界一アクティブ
リー・ハオトン
シャンシャンとは逆に、下半身を積極的に使ったスウィングをするのは、欧州ツアーで活躍するリー・ハオトン。欧州で人気のコーチ、ピート・コーウェンに就き、地面を蹴った反動の力(地面反力)で飛ばすスウィングに取り組んでいる。ハオトンも以前、レッドベターアカデミー出身のマイケル・ディッキーに指導を受けていた。幼少のころに築いた基礎が、今も生きている。
CHAPTER 4
【次世代の星を育てる】
欧米のレッスンを中国向けにカスタマイズ
2004年に訪中し、以来年間、中国でレッスン活動を行うスコットランド人コーチがいる。中国女子ツアーの賞金女王セキ・ユウティンや、欧州ツアーで活躍するリー・ハオトンへの指導経験をもつマイケル・ディッキーだ。
変革期にある中国ゴルフの中心で選手に影響を与えてきた。そんなディッキーの特徴は、型にはめずに行うコーチングだ。型にはめない教え方だからこそ、選手のことをよく観察をして、長所を伸ばすような指導をしている。
個性を生かしつつも球筋のコントロールが重要というディッキー。ラウンドでもっとも重要になるのはフェース面のコントロール。そのため練習からラウンドでの状況を想定して、球筋のコントロールをさせるのだという。フェードを打つためのスウィングをマスターするのではなく、こんな状況を乗り切りたい、そのためにはフェードが必要だ。という考え方でなければ実戦では使いものにならない。
CHAPTER 5
【コーチたちが見た中国ゴルフ】
世界レベルの選手を輩出する環境は整った
女子ではフォン・シャンシャンが、年のウェグマンズLPGA選手権でメジャー優勝を果たした。次に期待されるのは男子の海外メジャー制覇だ。中国ゴルフ躍進の象徴として、その期待を一身に背負うのが24歳のリー・ハオトンである。
世界で戦うためにはタフなフィジカルは欠かせない。ハオトンは平均的なアジア人よりも体格が大きく丈夫な身体を持っている。そして何よりもハードワークを厭わない。練習を惜しまずやり続ける力は、中国人選手の特徴と言えるのかもしれない。
パークやグリーンのように、欧米で最新の理論を学び現地で教えるコーチたちが、中国ゴルフの発展を支えてきた。プレーヤーだけでなく優秀なコーチも続々と誕生している。プレーヤーのすそ野はまだまだ拡大していきそうだ。
CHAPTER 6
【レッスンの大家が残したもの】
中国で脈々と受け継がれるレッドベター・イズム
中国ゴルフの変革期の中心にいるプロやコーチを紹介してきたが、そのスウィングや指導法を辿ると、ひとりのコーチに行き着く。いまやツアープロのコーチの中でも権威的存在となった、デビッド・レッドベターだ。
そしてまだ黎明期だった2000年代の中国にも、レッスンの拠点を創設している。そのアカデミーでレッドベターの理論を学んだコーチたちが、今、中国各地でプロやジュニアの育成を行っているのだ。
レッドベター本人は現在中国の選手を直接指導してはいない。しかし弟子や孫弟子にあたる次世代のコーチたちによって、その教えは脈々と受け継がれいる。
かつて韓国出身のパク・セリを指導して、一躍世界のトッププロに育て上げたレッドベター。韓国ではパクに憧れてゴルフを始めた世代が、今、世界を席巻している。そのノウハウが、今度は同じアジアの中国で花開こうとしている。
CHAPTER 7
【知られざる中国、国内ツアー】
日本人プロも続々と参戦。スター候補はここから生まれる
欧米からのレッスン理論の流入で成長を遂げる中国ゴルフ。近年では国内ツアーの整備も急速に進んだことで、プロのすそ野も広がっている。国内試合の開催コースは特定の地域に偏らず、寒い時期は南が多めで、あとは全国に散らばっているそうだ。
一方で日本ツアーと比べると賞金額は「二桁は違う」そうで、活躍したからと言って国内でスターになれるというわけではない。共催ツアーも多いので、そこでの活躍を足掛かりに、アジアや欧米のツアーに進出を目指す選手が多いようだ。
レッドベター本人は現在中国の選手を直接指導してはいない。しかし弟子や孫弟子にあたる次世代のコーチたちによって、その教えは脈々と受け継がれいる。
国内ツアーを盛り上げるために、海外からも選手を積極的に招く。オープンな手法で、国内プロを育着実に成長をしている中国ツアーが今後発展をすれば、自国ツアー出身のプロが多く海外で活躍する日も遠くないだろう。
『レッスンの匠 中国ゴルフ 文化大改革』は、チョイス2019年秋号に詳しく掲載されています。