パットの名手の共通項とは何か?
永遠の疑問とも思えるこの課題の答えを求めていたレックス倉本が、米国で二人の研究者と
邂逅。正しいライン読みを目の錯覚から紐解くクレイグ・ファウンズワースと打球の安定を
生むストローク技術を提唱するマリアス・フィルマルターだ。2人の権威が語る最新パッテ
ィング術とは。
PART 1 その①
【まずは誤差を自覚しよう】
“目と脳”の不一致がラインの読みを狂わせている
「キミの手は、“正しく見えているもの”に反応するかね?」
ファウンズワースのライン読みの指導は、まず“ハンド&アイ・コーディネーション”つまり、手と目の協調具合をチェックすることから始まる。手で線をなぞる、物をつかむといった動作が正しくできないのは、目からの情報、視覚に誤差があるから、とファウンズワースは言う。ゴルフの場合では目標の見え方、距離感、狙いの定め方などで誤差が生じているようだ。
チェック方法は簡単なテストやドリルで行える。①ストローテスト、②ドットポインティングテスト、③フィンガータッチドリル、④ターゲット指さしテストなど。いずれもまず両目を開いて行い、次に片目を交互に閉じて行う。
見え方の誤差には個人差がある。だからこそ自覚が必要であり、その対処法を考えることがライン読みの上達につながる。自分に合ったトレーニングを繰り返すことで、見え方は改善される。それはパターを握らなくても、室内でできるドリルもあるという。
「机に向かって、紙とペンで線を引くことを繰り返すだけ。それでも目の使い方が変わり、見え方が改善され、距離感も劇的に向上する可能性があります」
ライン読みもストローク技術と同様に技法を重視しがちだが、その前に自身の見え方の誤差を知り、改善することを最優先とすべきなのだ。
PART 1 その②
【正しい目の使い方を覚える】
両目のラインを意識していますか?
目を鍛えるドリルは長期的に取り組むべきだが、実際のパッティングでも意識的に目の使い方を改善すべき点はある、とファウンズワースは言う。その最も基本的なものは、アドレスでの目のポジション。人間は2つの目が水平に並んでいるが、それをどうラインに合わせていくかで、直線のラインも曲がって見えてしまうという。
「理想は、直線のラインの真上に両目を平行にセットして、そのままラインを目標まで追っても真っすぐ見えること。目の位置が真上でない場合ラインが曲がって見えたり、利き目とボール位置の関係が悪くて上手くラインを目で追えないことがあります」
利き目とボール位置の関係も同様で、ボール位置が利き目の真下より、少し目標寄りにあると目でラインを追いやすくなるという。
「利き目が右目の場合は簡単ですが、左目の場合は注意が必要。左目より左にボールをセットすると、手の位置が左に外れやすい。そのぶん左足を左にズラして、目の位置はそのままで重心を左に移せば、手元が体のセンターに来るバランスの良いアドレスになります」(ファウンズワース)
目の位置を確認するには、ボール位置にミラーを置いてチェックすることがオススメ。あくまでも目とラインの位置関係のチェックなので、水平な場所を選んでほしい。
PART 1 その③
【狙うために必要なこと】
ライン全体の長さだけでなく転がる時間もイメージする
ラインに対して正しく目の位置をセットできるようになっても、距離感が上手く定まらないことがある。
「単純にラインの長さだけでなく、ボールを転がした場合のスピード、目標に到達する時間をイメージするんです」(ファウンズワース)
距離感を作るためには、ラインの横に立ち、ボールからカップまでの想定ラインを指でなぞってみる。ボールの転がりをイメージし、カップに到着して、止まるまでの時間を感じ取るようにする。
「トレーニングでは、パートナーにまずイメージした転がりの時間が何秒か、伝えるようにします。次に実際にそのラインでボールを打ちます。ボールを打つと同時に目を閉じ、ボールがカップに到着して止まったと思った時の時間を計測します」
この時間感覚は【室内で目を閉じて曲線をなぞるドリル】でも鍛えることができる。
「このドリルに慣れてきたら、逆のラインも打つようにしてください。たとえば下りのラインだったら、逆は上りになる。当然、転がりのスピードや到着時間が変わってきて、イメージの具体性が高まるはずです」(ファウンズワース)
PART 2 その①
【転がりが良くなるヘッド軌道】
パットの絶対条件はインサイドアウト・アッパー
正しいライン読みにはボールの転がるスピードのイメージが重要。だが、転がりが不安定だったら、ライン読み自体も狂ってしまうのではないだろうか? レックスのもう一つの疑問をファウンズワースとは異なる観点から解消してくれたのがマリアス・フィルマルターの“ヘッド軌道論”だった。
「450人以上のツアー選手のデータを集めた結果、名手と呼ばれる人は、インサイドアウトでアッパー軌道のストロークが絶対的に多かったのです。アッパー軌道の数値が大きいほど、より右へのインサイドアウト軌道の振り抜きが要求されます」(フィルマルター)
この分析からフィルマルターは1つの実験を試みたという。
「ゴルフをしない人たちに、テーブルの上で、手を使ってレモンを真っすぐ転がしてもらったんです。すると、真っすぐかそれに近い転がりをしたのは、目標に対してインサイドアウト・アッパー軌道で手を動かした人たちだけでした。ゴルフボールをテーブルの上(腰の高さ)に置いて、パターで打ってみると理解しやすいでしょう。まず、アウトサイドイン軌道はありえない。ヘッドを高く上げてダウンブローで打てば、テーブルを傷めるだけでなく、ボールは転がらずに跳ね上がってしまいます」
アッパーの打点はヘッド軌道の最下点より先。つまり最下点からインに向かっている状態で当たるから、ラインより左に転がってしまうのだ。
「そこで、少しヘッド軌道をインサイドアウトにすれば、目標方向に正しく転がります。ボールには軽いフック回転を含んだ順回転がかかり、スムーズに転がります」(フィルマルター)
PART 2 その②
【アドレスとアライメント】
いつも同じ形に構えることがインサイドアウト・アッパーの第1歩
インサイドアウト・アッパー軌道を実践する方法は、ほとんどアドレスで決まる、とフィルマルターは言う。
「ヘッドの動きを安定した円軌道にするには、背骨から首にかけてのスウィング軸に支点を置き、それを不動にすること。そして、アッパー軌道で順回転をかけたいなら、必然的に支点と軌道の最下点はボールより飛球線後方になければいけない」(フィルマルター)
では、肩のライン、アドレスの向きをラインと平行ではなく、右に向けるべきなのだろうか?
「通常、グリップは右手が下になるので、必然的に背骨は少し右に傾きます。また、右ひじを少し引き付けるだけでもインサイドからアタックしやすくなります。これでボール位置を鼻筋より左サイド、目安として左目の下ぐらいにセットすれば、適度なインサイドアウト・アッパー軌道が得られます」(フィルマルター)
大切なのは、アドレスを一定にすることでストロークを安定させること。
「アドレス、セットアップは毎日微妙に、気づかないうちに変わろうとしていきます。パッティングの原理を理解し、それを日々の練習で整えて再現性を高めることで、結果的にはテンポも良くなり、コースでのアライメントや距離感も良くなっていきます」(フィルマルター)
ほんの数分でも、毎日のアドレスチェックと反復練習を行うことが、上達への積み重ねとなるのだ。
PART 2 その③
【振り幅とテンポを整える】
自分のパターの“飛距離”を知っていますか?
「距離感を作るには“効率的なボールの転がり”が絶対条件。その次に大切なのがテンポです」(フィルマルター)
人それぞれで適正な“テンポ”は異なるが、ストロークのテンポは常に一定でなければ、正確な距離感を養うことはできない。まずはメトロノームなどで、自身の理想的なテンポを探す努力が必要となる。たとえば、コースに行くまでに車の中で常に一定のリズムの曲を聴くことも、テンポを整える役に立つ。また、最近はスマホのアプリにもメトロノームのようなものがあるので、それを利用するのもいいだろう。
毎日、5分でもいいから一定の振り幅で、一定のテンポの時の“飛距離”を磨くことからスタート。そこから別の“番手(振り幅)”ごとの“飛距離”を確立していけば、間違いなく距離感は向上する。距離感に自信が持てれば、ラインだけに集中できる。
「転がり、テンポ、距離感が安定すると“無意識”でラインに打てるようになります。これが理想です」(フィルマルター)
『レッスンの匠 米国最新パット術』は、チョイス2020年春号に詳しく掲載されています。