道具と技術の変遷と、
そこから見えてきたスウィングの原点
近代のゴルフクラブはシャフトがヒッコリーからスチール、そしてカーボンへと進化。
ドライバーヘッドもまたパーシモンからメタル、そして大型チタンへと進化を遂げてきた。
道具の進化に伴い、球を打つためのスウィングはどう変化してきたのだろうか。
ゴルフコーチ・森守洋が解き明かしてくれた。
スウィングの原点
クラブが変わっても、技術の基本は変わらない
ゴルフギアの進化とスウィングの進化はどちらが先か。ニワトリと卵のように議論されがちですが、明らかにギア(道具)が先です。ゴルフというゲームを行うために、ルールで規定された道具を使いこなせるように、スウィングは進化してきました。これからも、その流れは変わらないはずです。
ゴルフショットで求められるパフォーマンス『遠くへ、正確に』は不変であり、それを実現するためのスウィング理論も『基本部分では変わっていない』と言えるのです。
近代ゴルフにおけるクラブの進化とは、シャフトがヒッコリーからスチールになったことと、ドライバーヘッドがウッドからメタルになったことだけでしょう。カーボン素材による軽量化や長尺化、アイアンのキャビティ化やユーティリティの登場などは、ほとんど関係なかったと思います。アイアンを軸に考えると納得できるはずです。
シャフトの進化
トルクの変化から生まれたスクエア信仰の功罪
スウィング理論の進化というと、1970年代に一世を風靡した「スクエア・トゥ・スクエア」、いわゆる「アメリカ打法」を思い出す人も多いでしょう。これは、シャフトがヒッコリーからスチールに変わったことに対して、よりスクエアなインパクトを求めるための理論でした。ヒッコリーとスチールの違いは、耐久性と重量、そしてトルク(ねじれ)の度合いです。
トルクが大きいヒッコリーでは「切り返しで間を取る」や「左のカベを作る」といった、ねじれ戻りのタイミングを合わせるためのレッスンが多くありましたが、スチールのねじれの少なさにはよりパワフルな身体の動きと、抑えられたフェースターン技術の組み合わせがベスト、と考えたのが「アメリカ打法」でした。
実は、ヒッコリーからスチールへの対応は3つめの基本である「フェースコントロール」の対応はアレンジだけで十分。ホーガンが実践したように、グリップを変えるだけでも対応できたのです。
ヘッドの進化
コントロール技術を惑わしたヘッド構造の変化
1980年代後半に「アメリカ打法」による身体の負荷を軽減する見直しが始まり、ホーガンのスウィング研究からいわゆる「ボディターン打法」や「アスレチック・スウィング」へ移行していきました。
同時期に、メタルウッドが台頭してきました。従来のパーシモンとは異なる中空構造で、ヘッドサイズは少し小さくなりましたが、ヘッド慣性モーメントは大きく、重心位置はかなり浅くなりました。これが、シャフトの低トルク化以来のフェースコントロール技術に、非常に大きな影響を与えました。
メタルではヘッドの慣性モーメントが大きくなり、重心位置が浅くなったことで、それまでのフェースコントロール技術との相性で明暗が分かれたわけです。
その後、重心深度がパーシモンのように深くなった『ビッグバーサ』の登場で、フェースコントロール技術は従来の流れにほぼ戻りました。打点のズレに対して曲がり幅は減ったものの、ギア効果による弾道コントロールが復活したのです。
ここでパーシモンの衰退が決定し、メタルが王道となりました。
この流れは現在の大型チタンヘッドにも踏襲されており、つかまり具合と曲がりにくさ、打点ズレの寛容性とのバランスで、フェースコントロール技術を考えることがスウィング技術の進化のポイントとなっています。
最新クラブと最新技術
どんなヘッドでも操れる【たぐり】の技術とは?
私の師・陳清波は、美しいスウィングであらゆるクラブを打ちこなす達人でしたが、そのベースは【たぐり】の技術です。
ワッグルの動きでアプローチを打つ。このとき、グリップエンドを【たぐり込む】ことでテコ動作とフェースターンをバランスよくマッチさせて弾道を操る。これをフルショットにも取り込んでいくことで、曲がりにくい=動かしにくい大型ヘッドでも自在に操れるわけです。
現在、ショットメーカーと呼ばれるプロにはこの【たぐり】の技術が見えます。クラブ進化
でヘッド特性が多様化するなら、必須技術になるのではないでしょうか。
『レッスンの匠 クラブの進化とスウィングの進化【技術は道具で変わったのか?】』は、チョイス239号(2022年秋号)に詳しく掲載されています。