週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
ロストボールを巡る裁判では、所有権がゴルフ場に属するのか、見つけた人間に属するのかで争われたことがあるが、今回の裁判は、商標権侵害と誤った広告に対して、訴訟が行われているのだ。例えば、池の中から集められたゴルフボールは性能が劣り、これをタイトリストのボールとして再度販売されるのは、同社の商標侵害にあたり、「リファービッシュ(再び磨く、刷新する)」と広告に謳うのは、ゴルファーに誤った知識を植え付けるものとして、裁判が行われているというわけなのだ。 「ロストボールを販売する業者は、そのボールの内部の劣化状況を知らないで売っている。ひょっとして1度しか打っていないボールかもしれないが、逆に5年以上も池の中に沈んでいたボールの可能性だってある。それを新しいボールと同じような性能があるように思わせるのは間違いだし、今回問題にしているのは、いったん業者が、機械を使い、化学洗浄したボールというのは、すでに私たちの製品ではなくなっているということだ」(アクシネット社法律顧問J・ナウマン氏)。 実際、96年に米ゴルフダイジェスト社が調査したところによれば、ゴルフボールを1週間水につけておいただけで、飛距離は6ヤードも落ち、3カ月で12ヤード、6カ月で15ヤード落ちるという結果が出ている。別の米軍研究所の調査でも、ゴルフボールは水を吸収することが明らかになっており、いったん吸収した水分は取り除くことが困難な上に、ボールの性能に大きな影響を与えることがわかっている。 その一方、ゴルフボールの表面加工は年々進歩し、今では、ほとんど傷がつかず、ロストボールとニューボールの区別がつきにくくなっているのも事実。しかも、「正確にはわからないが、ロストボール市場の規模について、一部では、ニューボールの倍の数は売れているといった声も聞く」(前出・ナウマン氏)というのだから、メーカーサイドとしては、黙って見すごすわけにはいかないのだ。 実際、キャロウェイ社が「ルール35」を発売するにあたり、5個入りのケースで販売したのは、1ラウンドにロストボールを含め平均4.5個のボールが必要としたためとか。米国では年間延べ約5億7000万ラウンドのプレーがされているが、これを4.5倍すれば、25億6500万個のボールが必要ということになる。ところが、実際にニューボールが売られている数は、年間約6億個、卸しで7億5000万ドルの売上げになっているのに過ぎない。 つまり、1ラウンド4.5個というのが正確かどうかはともかく、ニューボールの倍以上、場合によっては、4人に3人はロストボールを使用している計算にもなる。 つまり、こうしたロストボールの使用者がニューボールを使用し始めれば、景気後退の始まった米国ゴルフ業界にも神風が吹く可能性があるというわけ。だからこそ、急増するロストボール業者に対する今回の裁判が注目されているのだ。 「ロストボール業者がいなくなれば、確かにプレーの経費は高くなるが、ニューボールでも結構安いボールはあるし、少なくとも、水に使っていたボールよりも、安定している」(米ゴルフショップチェーンのオーナー、E・ワッツ氏)。 クラブに金をかけるのなら、ボールにも、もう少し気を使うべきということか……。