週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
「将来的には世界に通じるゴルファーを、沖縄から誕生させたい」と熱く語るのは、沖縄県ゴルフ協会のジュニア育成委員長を務める菰野利明プロだ。今回、小学校に誕生したゴルフクラブの講師として、野口敬恭プロとともに特別授業を担当する。 現在、50歳の菰野プロは、4年前に脳内出血で倒れた後、リハビリの末、日常生活に支障のないレベルまで回復したが、今も右半身に障害を抱えており、プレーはできないでいる。 「ゴルフができなくなって、改めてゴルフの素晴らしさを知りました。ゴルフを通じて、世界は広いということ、また感動できるスポーツであることを、子どもたちに伝えたいですね」 菰野プロは、ブラジル・サンパウロのレイクサイドCCの支配人を務めた経歴もある。また世界中のゴルフを学ぼうと、これまでに約60カ国を訪問しては、数多くのゴルフ場を自分の目で見てきた。病に倒れてからは、向学心にいっそう熱を帯び、セントアンドリュース、パインハースト、オーガスタナショナル……など、世界の名コースを視察。さらにゴルフという“教材”が、いかに学校教育に相応しいかを説き、3年前には日本で初めて学校の体育教師を集めて、ゴルフ講習会を開催した。そうした活動の中で、今回、公立小学校ではおそらく初の“ゴルフクラブ”の誕生と相成ったわけである。 対象は4年生以上の高学年で、年間18回の授業を行う予定。ゴルフのエチケット、マナーに始まり、ゴルフの歴史や菰野プロが訪れた世界中のゴルフ場を紹介する授業も予定されている。また、すでに校庭にネットを張る計画も決定しており、「パットからアプローチ、ミドルアイアン、ロングアイアン、ドライバーと、徐々に距離を伸ばして行きたい」(菰野プロ)そうだ。 とこらが、いわゆる正規の体育授業のカリキュラムの一環ではないため、学校の予算は使えない。そういった施設、道具等の提供は菰野プロらが草の根的に県内のゴルフ場等に協力してもらう予定という。 さて、宮里兄弟の活躍は、決して偶然ではない、というのが菰野プロの持論でもある。というのも彼はザ・サザンリンクスGC、パームヒルズGRなど、沖縄のゴルフ場で支配人として長く運営に携わってきたが、「米ツアーに多いバミューダ芝は、日本では沖縄にしかありません。ボールが沈みますから、しっかりとしたスウィングを身につけないと、ボールが打てない芝なんです。その意味でも環境が整えば、沖縄からどんどん世界に通じるゴルファーが誕生するはずです」と力説する。 JGA(日本ゴルフ協会)に問い合わせても、ゴルフ部は私立の中学校にはいくつかあるが、小学校のカリキュラムとしてゴルフが採用されたことは、恐らく初めてだろうとのこと。今回、教育の中にゴルフを取り入れるという大英断をした壷屋小学校の阿嘉慶子校長は、「具体的な活動についてはこれからですが、ゴルフは人間性や社会性を養うのに相応しいスポーツと聞いています。クラブ活動を通じて、子どもたちが自分の良さや個性を発見し、自立心を育ててくれたらと期待しています」と語る。 公立学校では今年度から、完全週休2日制が導入された。文部科学省が推進するゆとり教育の一環だが、どのように休日を過ごすかについて、教育関係者も戸惑いを隠せないでいるのが現実だ。それだけにスポーツなどのクラブ活動に、かかる期待も大きい。 これがきっかけで世界に通じるゴルファーが誕生するかどうかはともかく、ゴルフが子どもたちの健やかな成長に役立てれば嬉しい限りである。