週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
初日から単独首位を守り、最終日も16、17番で連続バーディを奪いトップを再逆転、98年の賞金女王、服部道子を1打差で振り切って優勝。初Vの軌跡を見れば、なんとも堂々たる勝ちっぷりで“大物感”のある井上だが、テレビ中継などでその華奢な体つきや、インタビューでのか弱そうな雰囲気に違和感? を覚えたゴルフファンも多いはず。 161センチ、52キロの、いわゆる一般体型に、極端なフックグリップ。ドライバー飛距離は昨年の日本女子プロ選手権時の測定で予選通過選手62人中最下位の200.9ヤード。 「大きな声では言えないんですが、私、あまりトレーニングもするほうじゃなくて……」と、最近巷で大流行している腹筋強化ベルトを「半年以上前、テレビショッピングで観て、すぐに買いました」という井上。しかも「ツアーには持ち歩いてません……すいません。家にいるときにちょっとやってるくらいで……。でも筋肉痛にはなったりしてるから、少しは鍛えられてるのかなと思うんですけど。でも飛距離は変わってないですね」と照れながら正直に話す。 近大時代は1年時と3年時に関西女子学生選手権を2度制覇。プロテストは卒業後5カ月目の一発合格。合格同期の他選手に先がけて、4年目でシード入り。なのにシード選手になっても毎週のトーナメント会場ではギャラリーに間違われて警備員に身分証明を要求されたり、プレー中もギャラリーからアマチュア選手と間違われた応援を受けたりの日々。しかし、鉄鋼業会社の社長令嬢、しかも3人兄妹の末娘として何不自由なく育った井上は、冷遇を受けてもいつも“おおらか”。 共同インタビューの席では「声が小さい」と注意され、それでも大きな声で話すことはできずじまいだった。2日目は「緊張のせいなのか、スタートしてから涙が出てきて…… 3ホールくらいはずっと目がウルウルした状態でプレーしてました」と言う。 最終日も「最後のほうはあと何ホールで終わり、とカウントダウンしながら回ってました。もう頭の中は真っ白で…… 最後のパットも、とにかくパターヘッドをボールに当てただけ。優勝なんて全然できると思ってなかったんで、ホントに結果はどちらでもいいと思ってたんです」という謙虚ぶりを貫いて、勝ってしまったのだ。 優勝決定後は、まるで新人時代の松田聖子のような仕草で泣きじゃくった井上。それでも嫌味を感じさせないのは、根っからのお嬢様育ちからくる“天然”のキャラクターゆえか。 「こんな私のゴルフでプロになれてシードまで獲れたのも信じられないことだったのに優勝までできるなんて……。夢のようです。今後はいろんなゴルファーの励みになるようなゴルフをしていきたい」と言う。 ただひとつ、彼女が変身するのは「大好き」な車を運転するときだとか。「いっつもトロくて、走るのも遅くて、そんな私が、車に乗れば速く走れるから……。」一昨年8月、新キャタピラー三菱の試合期間中に丸ごと盗難に遭った愛車・ベンツE55AMGを「今でも帰ってくればいいなぁと思ってます。シードを獲る前に、一生の買い物と思って購入した車。クラブやシューズ10足ほど、それに好きなCDも100枚近く積んであって……」と井上。盗難事故後は国産のトヨタ・セルシオに乗っているが、優勝賞金が2代目AMGに変身する可能性も大、か。