週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
話は試合前日の5月1日に遡る。出場選手のひとり、服部直樹が練習場で練習している2時間半余りの間にロッカーに入れたセカンドバッグが紛失。中に入っていた現金他合計約60万円分が一緒に消えた、というのが明らかになっている。 服部は現在、事件に関して多くを語りたがらず、「いろんな人に聞かれるので話す度に思い出して腹が立つ。だからもう話したくない。ツアー(日本ゴルフツアー機構=JGTO)に任せることにしました」と言った切り、口を閉ざしてしまった。 任されたツアー側はどうか?「今後のこともありますし、これから主催者、コース、運営会社などと話していくことにはなると思います」(事務局)と、あまり積極的に話が進んでいる気配は見られないようだ。 現場となった名古屋GC和合コースも「大変不幸な出来事で、被害に遭われた服部さんには、申し訳ない思いで同情するばかりですが、だからといってどうしたらいいのか……」(星野総務部長)と困惑するばかり。「警察にも来て頂いたことですし、捜査の状況を見極めて……」と、様子見の姿勢だ。 実はこの事件、事件直後にはそれぞれの主張が食い違っていた。そのこともあって誰もが多くを語りたがらなくなっているようだ。少し整理してみよう。コースには、貴重品を入れるセーフティボックスが設置されており、本来貴重品はそこに入れるシステムになっている。だが、服部はそれを使わず、ロッカーに貴重品の入ったセカンドバッグを入れていた。ここで問題となるのはそのロッカーのカギ。服部もコースも時間が経った今では口を閉ざしているが、このカギに関して事件直後には双方の主張が食い違った。 カギをかけてそれを預けたのに、なぜそれがロッカーにささって開いているのか、と服部がコースに詰め寄れば、コース側はかけ忘れかもしれないのでは、と言い返して譲らず、延々、水掛け論が展開された。 ロッカーキーを預けるカウンターにはトレーが置かれ、通常は係の人がそこでカギを受け取る仕組み。だが、服部がそこにカギを持って行ったときには誰もいなかったので、そこにカギを置いたという主張に、コース側は疑問を投げかけたわけだ。今回の事件は“ツアー預かり”という形で先送りされているが、我々一般ゴルファーにも無関係の話ではない。つい面倒だから、貴重品を専用ロッカーやフロントに預けないで盗難に遭った場合、責任は誰にあるのか? ゴルフ問題に詳しい熊谷信太郎弁護士に話を聞いた。 「基本的に貴重品を管理するシステムの有無がポイントになります。今回の場合は、たとえ本人(服部)の言い分通りだとしても、コース側の過失を問うのは難しく、本人の過失となるでしょう。設備があったのにそこに預けず、ましてやロッカーキーを預ける所に人がいなかったからと言って、そこに置きっ放しにするというのは……。フロントに言うなり何らかの方法があったはず。法律的には(紛失するいう)結果責任は保管商人(コース)が預かった場合に生ずる。この場合はそもそもコースが預かってすらいないのですから」と手厳しい答えが返ってきた。 事件後、ツアーでは貴重品をきちんと預ける選手が増えたと言う。服部の事件の決着はまだついておらず、当日、指紋採取などをした愛知県警愛知署に被害届も出されている。だが、自分の身、自分のものは自分で守るが原則。たとえ警備を厳しくしても、本人に油断があっては何ひとつ守れない。プロだけでなく、我々アマチュアにも警告を与える事件だった。