週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
当然のことだが、高反発ドライバーが解禁となれば、ユーザーはそちらに目が向く。しかし、これまでルール違反とされてきた反発係数0.830~0.860の高反発ドライバーが米国で解禁になるのが来年1月からの5年間。といって今年中の開発は間に合わないし、2~3年後になれば、逆に近い将来使用できなくなるクラブを購入しようというゴルファーは少なくなるだろうし、メーカーとしては、どういうタイミングで生産するのかが難しくなる。 「なぜ今なんだ。ドライバーがもっとも売れる夏場の3カ月を前にして、混乱を引き起こすだけだ。各社の主力ラインは、すでに値下げ合戦が始まっているのに、一層加速することになりそうだ」と語るのは、ナイキゴルフのクラブ部門ディレクター、M・ケリー氏だ。つまり、今年のクラブ販売の最盛期には「合法」クラブが売れずにメーカーが大きな痛手を被る可能性があるというわけなのだ。 もちろんキャロウェイやテーラーメイドなどは、日本やヨーロッパで販売していたERCIIやR300シリーズなどを、急遽米市場に差し向ける予定と聞くが、時期的に今シーズンは間に合わないそうにない。しかし、もっと深刻なのは、これまでUSGAと歩調を合わせて、反発係数0.830を超えるドライバーを生産してないメーカーだ。 「今回の合意には拍手を贈りたい。しかし、短期的にせよ、これまでの違反ドライバーが、突如注目を浴びることになるだろうし、(USGAの)ルールにのっとって商売をしていた人たちにはダメージがある」と、ピンのJ・ソルハイム社長が語るように、数年後にルール違反になるだろう高反発ドライバーをこれから開発しなければならないメーカーなどは、今回の合意を複雑な心境で受け止めている。 一方、今回の合意で、「高反発フェース規制はアマとプロとで異なった基準を作るべきだ」と語っていた故E・キャロウェイ会長の言葉が、期間限定とはいえ、現実のものとなったが、これによってメーカーの“プロ離れ”も進むのではないかといった見方も出始めている。 これまでは、トッププロの使用クラブが、売り上げを大きく左右していたが、今後、ドライバーだけとはいえ、プロとアマの使用クラブが、全く異なってしまうため、メーカーのマーケティングにおけるツアープロ依存度が大きく後退する可能性があるというわけだ。その意味では、テレビCMにミュージッシャンのケニーGやマイクロソフト社長のB・ゲイツ氏らを起用していたキャロウェイ社の戦略は、もともとプロとアマのゴルフを別のものとして考えていたということかもしれない。 ツアープロのクラブ使用契約料が高額化し、中小メーカーのプロ離れが進んでいた矢先だけに、今回の合意の副産物として、プロ離れの加速化も注目されるところだ。また、高反発ドライバーに関して先をいっている日本のメーカーにとっては、米国のメーカーを混乱をきたしている今こそ、対米輸出を視野に入れた絶好のマーケティングのチャンス到来といえるのかもしれない。 さて、今回のルール合意で得するのは誰で、損するのは誰だろう。それにはもう少し時間が必要なようだ。