週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
男子の中嶋常幸復活Vの陰にはなったが、前日17位タイの藤野が最終日のベストスコア66で、プレーオフの末、11打差逆転の世界的な記録を作ったことは驚異の出来事だった。初日51位タイからの優勝も女子ツアー史上初。本来なら、大いに藤野を褒め称えたいところなのだが……。 最終日、藤野より上位でスタートした選手たち、とりわけ最終組でプレーした木村、服部道子両選手がそろってスコアを崩したことが、ゲームを泥仕合にした。首位を行く木村を4打差で追っていた服部は75、木村に至っては77を叩き、前日までの2日間で9アンダーまで伸ばしていたスコアを4アンダーまで落とすありさま。いくら藤野が好プレーを見せたと言っても、ツアー新記録並みの61、62をマークしたわけではないだけに、優勝経験も豊富な木村の最終ラウンドはあまりに情けなかった。 プレーオフ敗退後、木村は「つらかったですねぇ。でも自分が一番悪いんだからしようがない。プレッシャーはなかったけど、朝から体が……昨日までと全然違って動かなかった」と説明した。前日まで正確無比だったショットもパットも精細を欠き、ガタガタだった最終日のゴルフ。プレーオフ時は「もうクラブを振るのがやっと」と疲労困憊の状態だったという。 この大会の2週前のヴァーナルレディースでは逆に最終日ベストスコア67でまくり、久保樹乃とプレーオフ7ホールの死闘を繰り広げた木村。その惜敗の直後だっただけに、応援のエールを贈った他選手、関係者も多かったが、その頃から蓄積された疲れが出たのか、得意のはずのプレーオフで2連敗となった。 ところが、本来叩かれても仕方ない敗戦を喫した木村に、なぜか前より高い評価が集まっている一面がある。というのは、テレビ中継の都合でアンフェアな位置に切られたカップ位置での勝負で負けたヴァーナルのときも、また、本人がもっとも悔しいであろう大逆転に涙をのんだ今回も、プレー後まったく悪びれることなく周囲に接し、マスコミに対応していたからだ。 「オリオリ(藤野)の今日の66は凄いナイスプレーです。上手いですよ。私も元気になればショットもよくなるだろうし、来週また体を治して優勝争いに加わりたいと思います」。 勝者を讃え、愚痴ることもせず、悔しさを隠して笑顔さえ見せながら丁寧に質問に応えた姿に「意外だった」「ちょっと感動した」という声すら上がったのだ。開幕戦時には共同記者会見で報道陣をなめてかかった態度を批判され、一部夕刊紙に“女子ゴルフ界の鈴木宗男”とさえ書かれた木村。プレーオフ2試合で逃がした魚はあまりに大きいが、思わぬところに意外な副産物を産んだようだ。