週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
今回、裁判で国籍条項の是非が争われたのは千葉カントリークラブ(経営会社・(株)千葉カントリークラブ)。88年2月、当時の理事会が「外国人の入会は当分の間制限する」と決議したが、これに対し95年、会員権業者を通じ同CCの会員権(株券)を2900万円で購入した都内在住の韓国人男性が、国籍条項は憲法14条にある法の下の平等、民法90条の公序良俗に違反するとして、入会の承認と500万円の慰謝料を求め提訴。 東京地裁は昨年5月、「国家が私的な社団に介入できるのは、結社の自由を侵してまでも保護すべき重大な侵害があったとき」として、ゴルフクラブ入会に国籍条項によって制限を与えるのは、社会的に許容される範囲と判断。男性はこれを不服として控訴したが、今年1月に東京高裁は男性の訴えを退けていた。さらに今回、最高裁が上告を棄却したことで、国籍条項について大きな司法判断が下されたことになる。 勝訴した千葉CCでは「我々の主張が認められたという以外、とくにコメントすることはありません」(同社本部) また今回、会社側の代理人を努めた明石守正弁護士は、「これは判決文に詳しくあるが、入会禁止を知りながら購入している点、他にも10コース以上の会員権を持っている点、市場性があり財産権を侵害するものでない点など、いくつもの事情からこうした判決になったものと理解している。理事会決議にある“当分の間”がいつまでかという問題について検討はしているが、今回の判決があったということで、早急に見直すことはないだろう」と話し、あくまでも憲法や、民法の公序良俗の問題ではなく、個別の事情が影響する判決であることを強調する。 これについてゴルフ場問題に詳しい中島章智弁護士は、「勘違いしてはならないのが、今回の判決が、ゴルフクラブにとって国籍条項を設けることが、未来永劫OKになったという判断ではないということです」と指摘する。 「憲法問題でいえば、たとえば雇用現場の男女差別などは法的にも社会的意識によっても解消の方向に進んでいる。また公序良俗問題に関しても、現時点の社会通念で許容されると判断されたものに過ぎません。日本は人種差別撤廃条約を批准しており、また地方自治体の選挙で外国人の参加も認めていこうという動きを考えれば、社会通念そのものが大きく変わる可能性もある。ゴルフクラブの国籍条項も例外ではないでしょう」 つまり今回の場合、個別事情に加え、あくまで“今の社会通念に照らすと、国籍条項は合憲といっているに過ぎない”というわけだ。 ゴルフジャーナリストの金田武明氏は、日本のゴルフクラブの実態から、「国際的に見ても、時代遅れの判決」と手厳しい。「もちろん好きな仲間の集まりである私的団体では、どんな会員を集めようと自由ですが、果たして日本に私的団体と呼べるようなクラブがどれだけあるのでしょうか。ほとんどのゴルフ場は会員制を謳いながらビジター制限はほとんどなく、むしろビジター収入に頼っているのが現状。仮に厳格なプライベートクラブであっても、諮問委員会で、この人はメンバーに相応しいかどうかイエスかノーかだけ判断すればいい。入会条件に国籍を問うなど、欧米のクラブでは考えられないこと。それだけ日本の公民権意識が低いことの証明といえるでしょう」 たとえば日本では官庁の監督を受け、税軽減などの恩恵を受ける公的存在である社団法人制クラブにあっても、未だに女性に門戸を広げないゴルフクラブもある。また、国籍条項を設けたことについても、明確な理由があるわけではなく、周囲のゴルフクラブに倣っただけという所が多い。公民権意識が低いといわれればその通りで、この際、最高裁の判断を契機に、それぞれのクラブ、メンバーが「人権」について真剣に考える時期なのかもしれない。