週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
全米オープン2回と昨年の全英オープンのタイトルを獲っていることは、今さら言うまでもなく、今季、米ツアーで開幕2連勝を挙げ、絶好調のエルス。その彼に「張には脱帽しなくては」と言わしめた小気味よい勝利は、最後の最後に転がり込んだ。 初日にエルスがいい位置(サスペンデッド暫定5位)でスタートした時から、最終日の18番まで、試合はエルスのものだと思っていた者が多かった。優勝した張本人も「正直、18番グリーンに行くまで、勝つチャンスがあるとは思わなかった。ラッキーだった」と自分でもビックリの優勝だった。 だが、「ベストを尽くすことだけ考えていた」と謙虚な口ぶりとは裏腹に、エルスとのマッチプレーの様相を見せた最終日の戦いは、「張はほとんどミスを犯さなかった」というエルスの言葉を借りるまでもなく堂々たるものだった。 17番でボギーを叩き、1打リードされて迎えた最終18番。先に打ったエルスのティショットは右に押し出して、カート道路に跳ね、木の後ろのラフへ。張のティショットもチョロ気味で、辛うじて左のフェアウェイに落としたが、そこから136ヤードの第2打を9番アイアンで1.2メートルのバーディチャンスにつける。一方のエルスは、グリーンに乗せられず、マウンド越えのアプローチ。第3打を1.5メートルに乗せたが、このパーパットが入らずボギー。このスキを張は逃さなかった。外せばプレーオフのバーディパットをど真ん中から沈め、中国人初の欧州ツアーV達成したのだ。 「ティショットでエルスがアイアンを持った(刻んだ)のに、ミスをした。エルスは本当にグッドプレーヤーだし、今や世界ナンバー2。エルスと一緒に回れただけでもうれしかったのに勝てるなんてホントにラッキー。うれしかった」 優勝後、夫人や友人と喜びを分かち合った張は、改めてそう振り返った。この勝利で2年間の欧州ツアー出場権も獲得、気になるのは今季の身の振りだ。 「まだよくわからないけど、日本とヨーロッパと半分ずつくらい」が基本だが、目標はあくまで「日本ツアーでの優勝」と張。 前年のQT4位の資格で出場権を得て参戦した昨年は、22試合に出場、トップ10が8回。うちKBCオーガスタでは、湯原信光に1打差2位タイ、アコムでは谷口徹に1打差単独2位と優勝まであと一歩手が届かなかった。その悔しさもあって日本での優勝を切望しているようだ。 加えて家族の問題もある。日本の試合に出る時は、夫人と2歳4カ月の子供を同伴するが、欧州ツアーではそうはいかない。中華人民共和国出身の張はビザ取得の難しさを、96年の欧州修行時代に身をもって知っている。「私は大丈夫。でも奥さんと子供は難しい」 そうつぶやいた張。マイペースで日欧両ツアーを股にかけて戦う心積もりのようだ。