週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
いくら預託金返還請求訴訟で勝ってもゴルフ場側には返還できるだけの資産がない。ならばせめてプレーフィや年会費収入から返してほしいのに、新会社を作って業務を委託しているから、それらの収入は新会社のもの。旧会社の債権者でしかない会員は、それを差し押さえることもできない、という話は実は今や昔話。 通常、新会社に業務を移管しているのに、コース名を変えていない、そして業務を移管していることを債権者である会員に告知していない場合、外から見たゴルフ場の経営に変化はないのだから、部外者は新会社と旧会社を混同してしまう。商法26条1項では“営業を譲り受けた人や法人は、前商号をそのまま使い続けた場合、営業に付帯する負債に対する責任も負う”と規定しているので、この条文を類推適用して、新会社にも預託金返還義務がある、と判断しているのが今回の判決だ。 舞台になったのは利根ゴルフ倶楽部(茨城)。同GCでは(株)利根ゴルフ倶楽部名義で預託金を預かっているが、平成11年3月から(株)ティー・ジー・シー(以下・TGC)という会社に業務を委託している。(株)利根ゴルフ倶楽部を相手に起こした預託金返還請求訴訟に勝っても、債務超過の同社には返還能力はないと判断した会員が業務委託先のTGCを訴えていた。1審で負けた会員が高裁に控訴、今回逆転勝訴となったわけだ。 勝訴の決め手になったのは、業務委託と言いながら、実際は営業譲渡だと認定されたこと。今回のケースでは、会員から預託金の返還請求訴訟が起こされている最中に旧会社がやっていた業務をまるごとそっくりTGCに移している。それは単に業務を委託している、というレベルではなく、完全に営業そのものを譲り渡しているのと同じ。ところが理事会組織も、従業員も、会員に発行される領収書の表示もすべて以前と同じ。だから外から見たゴルフ場の経営に変化はないので前出の商法26条1項を類推適用できる、というわけだ。 「一部の会員の権利行使が他の大多数の会員の権利を侵害する、というケースはよくあります。だから、ゴルフ場側が訴訟を仕掛けてくる一部の債権者に対し、会員の権利を平等に確保し会員のためになる目的で対抗することについては否定しませんが、ゴルフ場が自分の身を守りたいだけの目的で対抗することは許さないということです」(ゴルフ場問題に詳しい弁護士) ミサワリゾートや朝日観光など、ゴルフ場運営のプロとして運営委託を受けているような場合は、当然プロの手でスムーズな運営をしてもらうことが目的なのだから、会員のためになっている。従ってコース名を変更していなくても、このようなケースで運営受託会社が預託金の責任を負うことにはならない。 今回のケースとは違うが、それならば、不透明な業務移管が突然行われ、新たな経営者に追加金を請求されるケースが全国で多数発生しているが、そういう場合、たいていはコース名も変え、会員にも告知していて、外から見ても、ゴルフ場の経営に変化があったことは明らかだが……。会員がこうした不透明な移管先に返還を請求したら、移管先から預託金を回収することができるのだろうか? 「業務委託そのものを取り消させたとしても、それまでの間に受託先が得た収入は取り返せませんし、不透明な業務の受託先として頻繁に登場するあるグループなどは、万一裁判に負けたら結局その受託会社を倒産させてしまうでしょうから、なかなか実際の回収となると難しいでしょう」(前出の弁護士) 結局の所、実際にお金まで回収するところまでいくのは難しいということに違いはないが、預託金返還請求訴訟はここまで“進化”している。 少なくとも今回、裁判所はゴルフ場のエゴには厳しい姿勢を見せているということが、会員には唯一の救いだろう。