週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
遠藤製作所は、新潟県燕市にある主にクラブヘッドを製造するメーカー。地場産業の洋食器製造で培った技術を活かし、1968年にクラブ製造に進出(現在は売上げの9割)。現在は鍛造に特化し、とくにチタン製の高級品、プロ・上級者向けヘッド製造では、抜きん出た技術力と収益力を誇っている。 それでも一般に無名なのは、あくまでもOEM(相手先ブランドによる生産)メーカー、つまり有名ブランドにヘッドをパーツとして供給しているメーカーだからだ。そのため、今回の上場というおめでたいニュースに関しても、「OEMメーカーという“黒子”の立場ですし、クラブ市場の環境が厳しい折でもあり、今回の取材はお断りさせていただきます」(総務部)と表立つことを拒んでいる。 しかし、同社の供給先は国内7社、海外3社にのぼり、国内では鍛造アイアンで62パーセント、鍛造ウッドで46パーセントという圧倒的なシェアを誇る。当然、技術力の高さには定評がある。某メーカーの関係者は「遠藤の技術力の高さは鍛造の過程だけでなく、溶接から研磨まで非常に優れてます。(納入先の)メーカー側の要望に的確に素早く応える実行力が凄い」と証言する。 さらに、業界の事情に詳しい片山哲郎氏は、「業界では一般に、高級品の多くは遠藤製作所製という認識ができ上がっています」と語る。 同様にクラブ設計家の松尾好員氏は「たしかにプロ・上級者用クラブ造りでの品質管理の素晴らしさでは抜きん出ています。でもその半面、価格が高いことが、シェア拡大のネックになりつつあると思います」と評する。 ところで、上場を果たすまでに成長した同社だが、その実力が認められるようになったのは意外に最近のこと。 「飛ぶチタンクラブが出始めたとき、初めて業界の注目が集まり、そこから急成長したわけですから、ここ10年ほどのこと」(前述のメーカー関係者)。 松尾氏も「10年にわたるチタンヘッドの進化の歴史の中で、遠藤はずっと高級品造り、つまりメーカーからの厳しい要求に応えてきたがゆえの技術力」と分析。つまり、同社発展の歴史は、チタンヘッド進化の歴史でもあるのだ。 注目の上場初値は、公開価格の1130円をやや下回る1100円からのスタートに。だが株式市場が連日バブル崩壊後の最安値を更新する最悪の環境の中での上場からか、落胆の色は見られない。ところで、OEMメーカーの上場だが、2年前に(株)グラファイトデザインが同じジャスダックに上場。素材メーカーとして歴史のある三菱レイヨンや藤倉ゴムも上場企業だ。 「今やOEMメーカーは大きな資本力で大きな工場を建て、品質面でもコスト面でも、国際競争に打ち克たなければならない時代。ゴルフ業界も同様ですから、そこから上場企業が現れるのも当たり前のことでしょう」と片山氏。 実際、新聞報道によれば、遠藤製作所も上場益でタイに新工場を建設。さらにPR効果で優秀な人材を確保、米国での市場拡大を図る狙いがあるそうだ。以前は上場は一流企業の証というイメージもあったが、最近は上場認可のハードルが低くなったこともあり、明確な経営戦略のもとで上場が図られている。 遠藤製作所もこれを機会に米進出を狙うということだから、一般ユーザーが知らないうちに、世界の「ENDO」になる日が来るのかも……。