週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
プロゴルファーの世界で、今回の戦争にもっとも個人的な関わりを持つのが、おそらくノータ・ビゲイIIIだろう。というのも弟のグレッグ・ビゲイ氏が、米海兵隊員として湾岸地域に派遣されているからだ。 「毎日、毎時間、彼のことを考えないときはない。僕たちがいいスコアを出すために戦っているのに比べ、彼は国のために命を賭けて戦っている。彼の任務は凄いこと」と語るノータだが、そのためにベイヒル招待の出場を取りやめ、ザ・プレーヤーズ選手権に出場しても、心ここにあらず、といった様子なのだ。 グレッグ・ビゲイが、実際に湾岸地域のどこにいるかは、作戦上から家族にもわからないそうだが、ネイティブ・インディアンのビゲイの一家は、祖父の代から従軍の歴史がある。ノータ・ビゲイのもうひとりの兄弟で、キャディを勤めるクリントに言わせると、「グレッグは戦場に行く前に『こうしたときのために僕たちはトレーニングを重ねてきた。戦地に赴き、この国を守るために戦おうと思っている』と語っていた。私たちの家族は、彼を本当に誇りに思っている」とか。インディアンのナバホ族には、母なる大地を守る教えがあるとかで、その延長線から米国のために戦うという発想があるようだ。 イラクの兵士も同じなのかもしれないが、純粋に国や民族、あるいは理想のために、武器を持つ兵士たちが少なからずいる。問題はそれを利用する政治家たちにあるのだろう。そして、そのために兵士やその家族、友人たちばかりでなく、ゴルフ界も大きな影響を受けている。 リゾート地区で有名なサウスカロライナ州マートルビーチのオーシャンリッジというゴルフ場では、「グリーンキーパーのひとりが予備役にいたために、今月の初めに戦争にとられてしまった。彼がいなくなったのは辛いよ」(支配人)などといった話が少なからず出てきている。予備役に登録していると、月に数万円の手当てが出るために、ゴルフ場のメンテナンススタッフの中には、今度の戦争に召集された人間が結構いるようだ。リゾートコースなどでは、入場者減に加えて、一番手の抜けないメンテナンス要員が欠けて泣きっ面に蜂。 また、ゴルフ中継の視聴率も、先のベイヒルでは、T・ウッズの4連覇という偉業達成にもかかわらず、視聴率は3.9パーセントと、昨年から39パーセントもの落ち込みを見せている。家族や友人、知人が戦争に取られて、ゴルフ観戦どころではないのかもしれない。 そんな中、例のオーガスタ・ナショナルの女性メンバー問題も、新展開を見せている。女性メンバーの入会を求めるNCWOのM・バーク会長が、「マスターズをテレビで放映し、女性に対して差別を行っているクラブを紹介することは、米軍にいる25万人近い女性たちをも傷つけることと同じ。民主主義の理想のために死をも厭わない女性たちが差別されるクラブなんてとんでもない。民主主義の理想には、差別は含まれていないはず」といった主張を展開、マスターズを放映するCBSに対し、以前にも増して放送中止を強力に求め始めたのだ。 これに対し、オーガスタ側は「人々の関心を惹くために、軍隊を引き合いにだすなど、恥知らずとしか言いようがない」(G・グリーンスパン、広報部長)と反発しているが、これによって、一旦消えかかったこの問題が、再度注目を集めることになったことは間違いない。 ともあれ「戦争が一刻でも早く終わり、兵士たちが安全に帰ってくることを望むばかりだ」と語るノータ・ビゲイの言葉が、いち早く現実のものになってほしいものだ。