週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
大幅な飛距離増といっても、話題となっているのはあくまでツアープロの話。この米GD誌の特集では、最新技術を駆使したハイテク用具の恩恵をフル活用しているのはプロだけで、アマチュアの飛距離は用具の進化に関わらず、大した伸びを見せてはいないという非常に興味深いデータを紹介している。 ティーチングプロのジム・マクリーンいわく、「55年製マグレガーのドライバー(パーシモン)で昔のボールを打たせても、最新のドライバーで最高に飛ぶボールを打たせても、一般アマチュアの飛距離は1ヤード程度しか変わらない。しかし、ヘッドスピード120MPH(秒速53.3メートル)のプロに同じことをさせると、飛距離は50ヤード以上伸びる」とのことだ。 実際、R&Aが2桁のハンディキャップを持つアマチュアを対象に行なった調査では、「96年から01年における平均飛距離の伸びは、わずか1ヤード以内。この間、プロは12ヤード以上伸びている」そうだ。 また、米GD誌の調査においても、「過去10年間における一般アマチュアの平均飛距離の推移は193ヤード(93年)から205ヤード(03年)と12ヤードの伸びに留まっている一方、米ツアープロのそれは260ヤード(93年)から288ヤード(03年)と28ヤードの伸びを見せている」というのだ。 実際、ツアープロたちの飛距離の推移は著しい。E・エルスはこの6年で、271.6ヤード(97年)から302.6ヤード(03年4月20日現在)へと、なんと31ヤードもアップ。V・シンは同じく14.7ヤード、P・ミケルソンは20.7ヤード、R・アレンビーは15.2ヤードと軒並み飛距離アップしているのだ。ちなみに、つねに平均飛距離トップのJ・デーリーは92年は283.4ヤードだったのが、今年は307.8ヤードにまで伸びている。 なぜ、ツアープロは大幅に飛距離を伸ばしたのか? ミケルソンいわく、「ヘッドスピードが速ければ速いほど差が出る」。 つまり、最新の用具の効用を引き出せるだけのヘッドスピードがあるためプロは飛距離を伸ばせるということのようだ。これを裏付ける証言をしているのが、今季の平均飛距離が278.7ヤード(128位)のN・プライスだ。 「私は昔は飛ばし屋の部類だったのに、今ではショートヒッターと呼ばれるようになってしまった。もちろん私だって最新のクラブやボールを使っているが、鋭角にクラブを振り下ろし、手首を使って瞬発的にインパクトする私のスウィングでは十分な飛びが得られない。だから今では、自分のそんなスウィングを、エルスのように大きなアークでレベルに振る“飛ぶスウィング”へ改造している」 飛ばし屋D・ラブIIIもユニークな指摘をしてくれた。 「クラブの進化で飛ぶようになったと言うけれど、クラブによる飛距離アップはトッププロとてせいぜい5ヤード止まり。むしろ原因はボールだ。ボールを変えれば、一気に10ヤード以上の伸びも期待できる」 確かに、米ツアーにおける飛距離増が注目を集め始めたきっかけは、00年のタイトリスト・プロV1の登場だった。ツアーにおける平均飛距離は同年1年間だけで6ヤードもアップ。これはツアーでの統計調査開始以来、最大の伸びだった。さらに今年は同社プロV1Xの登場で、飛距離増の傾向が一層強まっている。それを知っているからこそ、「ツアーでは全選手が同一ボールでプレーすることを検討したほうがよいのでは?」といったコメントがエルスらの口からこぼれたり、プライスに至っては「野球でプロは木製バット、アマは金属バットと区別しているのと同様、ゴルフでもツアープロは一昔前のボールに限定してプレーすべき」という提案まで聞かれるのであろう。 トーナメントを観戦するファンが本当に見たいのは、パワフルな飛びなのか。それともワザの競い合いなのか。ともあれ、用具開発競争が生み出した“飛距離アップ戦争”は、当分の間、終結しそうもない。