週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
川奈ホテルが民事再生法を申請したのは昨年5月のこと。再生計画では、コクドが220億円を出しスポンサーになることで、ホテル、ゴルフ場施設に設定されていた抵当権を外すとともに、総額約13億円かけて預託金債務も整理し、486口あった会員権も喪失させて、完全パブリック制に移行するという内容だった。 8月1日より正式にスポンサーになったコクドでは、従来、ホテルへの宿泊客だけにプレーを認めていた方針を切り換え、大島コースに限り日帰りプレーを可能にするとともに、10月からは同コースで乗用カートを導入、セルフプレーも認めてきた。これらの新しい運営方針については、一部から「名門・川奈が大衆化する」との否定的な意見がある一方、他方では後述する料金設定の見直しもあり、「誰もが一度はプレーしてみたいと思う川奈が、多くのゴルファーに、より身近になった」との好意的な意見もある。実際、コクドが経営に乗り出してから、稼働率、入場者数も飛躍的に高まっているという現実もある。 だが、こうした新時代への挑戦には一定の理解を示しつつつも、大島コースからOB杭をなくすという方針転換に苦言を呈するのが、ルール研究家で80歳になる上原一郎氏だ。 「西武グループの多くのゴルフ場では、本来OBになるようなブッシュに入った場合、1ペナで横に出してボールを打ってもいいというローカルルールを採用している。日本独自のプレーイング4についてもいえることだが、これは明らかにルールの通則1-1で規定されている連続ストロークに“空間”を作ってしまい、ルールの基本精神に反するものだ。多くの人にゴルフやコースに親しんでもらいたいという気持ちはわからないではないが、しかしゴルファーを甘やかせるローカル・ルールは、結果的にゴルフの本質や醍醐味を損なうものにつながるのではないか?」 これについてコクドに尋ねたところ、「ご指摘の通り、昨年10月の乗用カート導入から、OB杭をなくしたことは事実で、1ペナを払うローカル・ルールでプレーしていただいています。初心者や女性のお客様も多く、またコースのアップダウンもありますから、カート導入とともに、広く川奈でプレーして頂くためのローカル・ルールとご理解いただければと思います」(同社広報部)と説明する。 新生・川奈同様、パブリックコースを展開する西武グループ系列のほとんどのコースでは、可能な限りOBを設けず、このようなローカル・ルールを採用しているという。これは西武グループが命名したわけではないが、多くのゴルファーがこれを“ブッシュ・ルール”と呼び、プレーの進行が早まりかついいスコアが出ると喜ぶ者もいれば、またゴルフの面白さが半減したと嘆く者もいて、反応は様々。 コクドになってから、料金体系も見直し、従来よりも格安の5万円で1泊、富士コースでのプレーを楽しめるのも事実。しかしながら一方、某経済誌恒例の「ベストコースランキング」で、昨年まで9年間1位の座を守り続けたのが、今年初めて首位から滑り落ち4位にまで転落してしまった。もちろん大島コースの運営スタイルの変更というよりは、民事再生=倒産のイメージダウンがあってのことだろうが、象徴的な出来事ともいえる。 伝統と新時代への挑戦。矛盾するテーマではあるが、これもまたすべてのゴルファーが、真剣に考えねばならない重大なテーマかもしれない。