週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
これまでに経緯を簡単に説明すると、「事件」は、イタリアンオープンの第3ラウンドで起きた。バレステロスが、14番のティグラウンドでスロープレーの警告を受け、さらに16番のやはりティグラウンドで2度目の警告を受け、1打のペナルティを受けた。ここまでは、よくあることだが、彼はこれを「レフェリーの嫌がらせ」として認めず、この1ペナ分をスコアに加算せずに、マーカーである同伴競技者の書いたスコアカードを書き直して、過少申告となり失格してしまったのだ。 もし、このままバレステロスが沈黙していれば、一件落着していたのかもしれない。しかし、パレステロスは、数年前にツアーの経理について疑問を呈したことから、自分が欧州ツアーから目をつけられ、嫌がらせを受けたと思いツアー批判を展開してしまったのだ。 欧州ツアーのエグゼクティブディレクターのK・スコフィールド氏を「独裁者」と呼び、ツアーの決定機構を「ほとんどマフィアのようだ」などと言ったため問題が大きくなってしまった。スコフィールド氏は、特定の選手に嫌がらせをするわけがないとし、「レフェリーの決定を受け入れない、偉大な選手がいるということは、悲しいこと。ここで重要なのは、スコアカードは書き変えることができない、ということのはずだ」と反発。 欧州ツアーでは過去7年間で、トップ10に入ることわずか1回だけのバレステロス。そのフラストレーションが爆発したのだろうと理解も示しているが、一方では「私たちは皆、彼にプレーを続けてもらいたいと願っている」と暗にバレステロスのツアーカード剥奪まで視野に入れた発言をしていた。というのも、スコアの書き変えに対する罰金に対し、彼はスロープレーを認めておらず「試合を失格することはわかっていた。その上で、(スコアカードの書き変えを)やったことで、罰はすでに受けている」ということで、いわば確信犯だったからだ。 バレステロスにしてみれば罰金を支払うことは、自分のスロープレーを認めたことになるので、罰金の支払い拒否が予想されていた。となるとツアーとしても、それを放置することもできず、ツアーカードの剥奪という処置を取らざるを得なくなる。実は、バレステロスは80年代にも欧州ツアーともめたことがある。このときは、アピアランスフィ(出場料)を禁止したツアー側に抗議して、バレステロスは自らのツアーカードを放棄している。しかし、その後、メジャーに優勝したりして、再度ツアーカードを獲得しているが、今回は、彼もすでに46歳。選手としての力も衰え始めていることから、ここでツアーカードを失えば、再取得は難しく、出場できる試合が限られ、事実上引退ということにもなりかねないと危惧されたのだ。 結局、事態を重く見た欧州ツアーの選手委員会は、処分決定を1週間延ばし、異例の聴聞会を、先の21日に開催。その結果、「彼はスコアをごまかす意思はなかったが、ツアーとレフェリーを批判したという規則違反によって罰金が課せられることになるだろう」(マーク・ジェームス・選手会委員長)ということで、金額については明らかにされなかったものの、同じ罰金でも、バレステロスの顔が立つように、スコアの書き直しに対する処分は避けた。これに対し、バレステロスも「私の言い分を聞いてもらえた。委員会の決定を受け入れるつもりだ」と間接的ながら、罰金を支払う意思のあることを表明。どうやら、最悪の事態は回避されたようだ。 全英オープン3勝、マスターズ2勝という実績に加え、それこそ欧州のA・パーマーとして、欧州ツアーを築き挙げてきたバレステロスの名前が彼を救ったということなのだろうが、肝心のスロープレーが本当にあったかどうか、それとも「嫌がらせ」だったのか、肝心な部分は曖昧な、釈然としない結論ではある。 ただ、少なくともこれでバレステロスに対しては、競技委員は今後、時間を計測しづらくなったといえるのかもしれない。