週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
マコーマック氏の名前は、日本ではあまり知られていないかもしれなが、T・ウッズ、D・デュバル、S・ガルシア、女子のA・ソレンスタム、K・ウェブらのマネジメントを行なっている会社を一代で築き上げた人物といえば、分かってもらえるだろう。あるいは、彼のクライアントには、R&Aを始め、USGA、ノーベル賞基金、ケネディ・宇宙センターといった世界的な協会・組織が名を連ねているといったほうがわかりやすいだろうか。 ほかにも、テニスのウィリアムス姉妹、P・サンプラス、アイススケートのK・ヤマグチ、大リーグ・ヤンキースのD・ジーター、数え上げればキリがないが、スーパーモデル、クラシックのミュージッシャン、果てはM・サッチャー元英国首相やローマ法皇といった世界の指導者たちのプロジェクトも手がけてきたと言えば、いかに大規模な会社かわかるだろう。そして、年商は1000億円を超え、世界32カ国に80のオフィスを持ち、3000名近い従業員を抱えるその帝国は、契約書もないアーノルド・パーマーとの握手で始まった。 マコーマック氏は、トップアマ同士として、学生時代にパーマーと友人となり、その後、プロゴルファーと弁護士と、道は別れたが、58年(IMGがスタートしたのは60年)に、パーマーを最初のクライアントとして、マネジャー業に手を染めたのだ。そして、J・二クラス、G・プレーヤーの2人を加えた「ビック3」時代に、現在の基礎を築いている。 「ビジネスという観点から見ると、彼はゴルフ界でたぶんほかの誰よりも影響を与えた人物だ。というより、彼がゴルフをビジネスにした」と二クラスが語れば、ウッズも「彼は、スポーツマーケティングの天才だ。そうでなかったら、今の私たちは存在しない」と語るほど。 その一方で、ウッズが「父と一緒に彼とはよく食事をしたよ。全英オープンでは、彼と食事をするのが慣習みたいになっていたんだ」と語るように、選手たちとの人間的な付き合いもつねに心がけていた。96年にトム・クルーズ演ずる「ザ・エージェト」という映画があったが、スポーツ選手のマネジャーたち達が皆ビジネスライクになっていく中で、マコーマック氏が「(主演の)マクガイヤーの原型」なのではと言われたのも、こうしたヒューマンな部分を大切にしていたゆえんだ。 たしかに、良くも悪しくも、ゴルフがマネーゲームになってしまったことに対する功罪はあるが、ウッズが語るように、マコーマック氏がいなければ、現在のプロゴルフ界の興隆もなかったはず。そういえば、マコーマック氏は、なんとベストセラーの本も何冊か著作しているのだが、その中でも100万部以上も売れた「マコーマックのマンビジネス」(日本語版)という題名の本の中でこんなことを書いている。 「100時間の会議を重ねるより、1ラウンドのゴルフをしたほうが、ビジネスの場で相手がどんなリアクションをするかを言い当てることができる」 ビジネス書のバイブル的な存在となった名著で、ゴルフとビジネスの話が結びつけられ繰り返されている。つまりはニクラスの言う「ゴルフをビジネスにした」というのは、プロゴルフ界のことだけではなく、まさに文字通り、ゴルフとビジネスを結び付けたことも意味しているようで、ゴルフをビジネスエリートたちの常識として普及させたことにも、大いに貢献していたといえる。 朝の4時半に起床し、朝食をかねて7時にはビジネスミーティングをこなし、1年に50万キロ近く世界を飛び回る精力的な活動をしていたマコーマック氏。今年の1月から、ほぼ昏睡状態にあったとはいえ、彼のいないスポーツ界が、今後どう様変わりしていくのか? 彼は天国から見守っていることだろう。冥福を祈りたい。