週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
「完成したショットの技術とは試合で感情が入ったときでも、状況に応じて“確率のい球”を“確率のいいスウィング”で打って行ける技術なんです」と江連は言う。 この技術を証明するショットが最終日の7番パー3で見られた。グリーン左と手前は池。ピンポジションはグリーンの右エッジから7メートル。7番アイアンで打ったボールはストレートボール(確率のいい球)で、165ヤードの距離をコントロールスウィング(確率のいいスウィング)し、ピンの右2メートルに攻めて行った。同組のD・スメイルは安全な攻め方で右に5メートル、手嶋多一も手前5メートルに一応乗せはしたが、江連が「ここしかない」というポイントにコントロールできたのは伊沢だけだった。 このホールから伊沢の技術が冴えわたった。続く8番は右サイドのピンポジションに対し、右のバンカーとピンとの間に落とし、3メートルにつけ、9番は左サイドのラフから、ピンとの間にある2本の木の右からドローで攻め、ピン手前1メートル。さらに10番はピン左に1メートルと、7、8、9、10番では、立て続けに完成した技術でピンにつけた。 「これほど連続してボールをコントロールするショットの精度になると、さらに技術を超えた精神力の強さの証明です」とも江連は付け加えた。 「プロでも試合中は戸惑うことはありますが、それを打ち消す精神力がなければこれほどのショットは打ち続けられません。感情を打ち消して“確率のいいスウィング”をして、“確率のいい球”を打ち続けるのは強い精神力の賜物です。最終日の伊沢さんには、完成された技術を超えた、その精神力が見受けられました」 この2~3週間で江連が伊沢の調整を行ったのはアドレス。前傾をどう変えたとか重心をどう修正したとか容易に説明できる技術のレベルではないが、この技術が完成していたという。さらに江連は今大会、伊沢に“バックスピン禁止令”を課していた。必要以上のスピンがかかり、距離感に微妙な狂いが生じていたからだ。伊沢は江連に課せられた課題をすぐさま実践。そして江連は「伊沢さんは伝えたことを実戦ですぐ試せる能力の高さもあるんです」と技術や精神力以外の能力も見せた。 終盤、伊沢は16番と18番でティショットをミスし、「この2ホールだけは感情のコントロールができていませんでした。伊沢さんの来週以降の課題です」(江連)と言うように、すべてが完璧ではなかったが、伊沢本人の満足度は高かったようだ。 「2年前の賞金王になった年よりいいスウィングができ、いいショットが打てていることをこの大会で確信できました。18番でバンカーからの2打目のボール位置をもっと右寄りにした方がいいかな……とか、前のスウィングのときはすぐにわかるイメージも、今のスウィングでは状況によっては60パーセントくらいのイメージしか湧かないという場合もあるけど、スウィングがよくなっていることは実感できます。当時“今良くても、いつか悪くなるかもしれない”という迷いがあって江連さんに見てもらい、スウィング改造することを決意したのですが、この2週間で結果を出すことができ、これまでやってきたことに自信が持てました。この1勝は大きな1勝になります」という伊沢は優勝して、いつもは見せない大きなガッツポーズと涙さえ見せた。そして、同じく涙を流す江連と伊沢は抱き合ってこの優勝を喜んだ。