週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
今年から、全英シニアオープンがメジャーに格上げされたため、チャンピオンズツアー(シニアツアー)のメジャーが5試合に増え、レギュラーツアーのメジャー4試合と合わせて9試合、これに全部出場したのだ。 過去にも、シニアとレギュラーを合わせた年間全8試合のメジャーに出場した選手はいる。90年、91年のJ・二クラス、93年のR・フロイド、そして00年のワトソンのわずか3人だ。 そういえば、丸山茂樹をはじめ、日本勢のワールドランクにおける低迷で、来年のマスターズ、全米オープンなどに、日本人が出場できるのかと危惧する声もあるが、そもそもメジャーに出場すること自体大変なこと。さらに今季はほとんど毎週のようにメジャーが続く強行日程。通常の試合よりも重圧がかかるだけに、シニアの選手がこれだけの日程を消化したのだから、やはり大記録といえるだろう。 しかも、今年のワトソンは、全米オープンの初日にトップタイになっている上に、シニアのメジャーでは、2勝のほかに2位が2回という大活躍。ニクラスも、フロイトもシニア入りした50歳、51歳の年に年間8メジャーの記録を作っているが、ワトソンの場合は、今月4日に54歳になっている上、3年前の年間8試合を達成したときより遥かにいい成績を収めているのだ。 トラディションでは「私はブルース(キャディのB・エドワード)のために勝つと約束していたんだ。ブルースに言わせると、彼のために勝つと約束したのは、彼と一緒に随分と勝っているが、今回が初めてのことらしい」とワトソン自身は語っているが、やはり今年のワトソン活躍の陰には、キャディの存在が見逃せない。 というのも「過去30年のうち27年間、私のキャディをして、いつも尻をたたいて励ましてくれていた」とワトソンが言うエドワードは、ルーゲーリック症候群といわれる筋萎縮症の一種を患い、余命いくばくもないと言われている。治療法が見つからず、この病気にかかると3~4年の命とされる致命的な病気で、そのためにワトソンは、「ドライビング・フォー・ライフ」という基金を作り、この病気の治療法研究のための資金集めまでしている。 全米オープンで、初日にトップタイになり、テレビインタビューを受けた際も、試合のことはそっちのけで「(成績よりも)話す機会が与えられたことをうれしく思う。私たちには、もっとお金が要るんだ」と基金のための資金集めに必死だった。 その甲斐あってか、全米プロでは、大会期間中にあるひとりのギャラリーから1000ドルの寄付を受けたり、ザ・トラディションの週には50万ドルの寄付が、ワトソンの基金に寄せられている。それくらいの金額では、まだまだ足りないそうだが、少なくとも、この使命感が今年のワトソンの精神的な励みとなり好成績の原動力になったことは間違いなさそうだ。 ザ・トラディションの勝利で、33万ドルを手にし、今年、ワトソンとしては、年間で最高の153万4608ドルを稼いでいる。すでに名誉と金を手にしているワトソンだけに、さらなる偉業達成には、社会的な動機が必要だったということかもしれない。