週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
まず第一に、今回の優勝は、ウッズのキャディ、S・ウイリアムスの100勝目に当たるほか、ウッズ本人とっても、米ツアーの39勝目。これはT・ワトソンやG・サラゼンの生涯勝利数とタイ記録で、27歳の若さで、ベスト10入り(9位タイ、トップはS・スニードの82勝)を果たした。 そしてなにより、今季5勝はトップで、前人未踏の5年連続プレーヤー・オブ・ザ・イヤーに一歩近づいたことを意味している。確かにウッズは、今年メジャーにこそ未勝利だが、最多勝利、バードントロフィ(年間の平均ストローク数のトップ)、それに賞金王がプラスされれば、プレーヤー・オブ・ザ・イヤーはほぼ間違いないとの見方が大勢を占めている。 今回の勝利で、賞金王争いでも、V・シンを7万1000ドルほど抜いてトップに立ち、こちらのほうでも、過去誰も達成したことのない、5年連続賞金王の偉業がかかっている。つまり、ゴルフ史上の記録の上で、今回の勝利は注目を集めた。 一方、メジャーに勝てないウッズに対し、幾度となく「タイガー・スランプ」などという見出しもメディアで飛び交ったが、今回の勝利をウッズ本人以上に喜んでいるのは、契約先のナイキかもしれない。 というのも、今大会でウッズはナイキの新ドライバー「イグナイト」(プロトタイプ)を使用して勝ったからだ。先の7月以来、ナイキの“顔”にもかかわらず、昔から使い慣れたタイトリスト975Dに戻していたため、ナイキでは、ウッズのスウィングに合ったクラブを必死で開発していた。 当初、ウッズがナイキのドライバーに戻る目標として、来年1月をメドにしていたそうだが、それに先立って同社のドライバーを手にしたうえ、この来春発売予定の「イグナイト」は、335cc(推定)というヘッド容量。タイトリストの975Dは265ccで、それ以前に使用していたナイキのドライバーも300cc前後。これまで、ウッズのドライバーといえば、上級者向けで、一般のアマチュアには難しいクラブと言われていただけに、販売しやすい大型ヘッドをウッズが使用してくれて万々歳というわけだ。しかも、「まだ、詳しい内容を説明することはできないが、『イグナイト』のフェースには新素材が使われており、これによってウッズも飛距離を伸ばした」(ナイキゴルフ・ゴルフクラブマネジャー、西原徹朗氏)そうで、飛ぶうえに「なによりバランスがいい」(ウッズ)と、よいことづくめとか。 実際、アメックス選手権までのドライバーの平均飛距離は、299.3ヤードだったのに対し、同試合では312.8ヤードも飛ばしている。フェアウェイキープ率もこれまで148位だったのに対し、アメックスの大会中は31位。このドライバーが優勝に大きく貢献したとも言え、ナイキとしては、乾坤一擲の勝負に勝ったといった声まで出ているというわけだ。 数十億円という契約料を払いながら「本当に気に入るまで、キャディバッグに(ナイキのドライバーを)入れなくてもいい」(ナイキゴルフのマーケティングディレクター、K・デブリン氏)と太っ腹なところを見せていたナイキ。もうひとりの目玉プロ、D・デュバルは大スランプの真っ只中、肝心のウッズも他社ドライバーを使っていた、そんな状況から自社製の、しかも大型ヘッドドライバーを使ってのウッズの優勝はナイキにとってまさに“起死回生”の優勝だったといえるのでは。