週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
この年の優勝がパーマーにとってのメジャー初勝利だった上に、事がゴルフ界の“キング”ことバーマーの名誉に絡んでいる。しかも批判しているのが良識派として知られるベンチュリだけに、アメリカのゴルフ界では、先週ちょっと大問題になってしまった。 この本によると、問題の事件は、その年のマスターズ最終日、12番のパー3で起きた。パーマーの打った池越えの第1打は、ぬかるんでいた地面に突き刺さっていた。ローカルルールで救済が受けられるはずだと主張したパーマーに対して、現場にいたルール委員は、「あるがままのライ」で打たなくてはならないと、パーマーの主張を否定した。これを不服としたパーマーは、ゴルフルールの3-3に基づき、最初のボールでそのままプレーし、ダボとした後、第2の球で一応プレーをしておき、パーをセーブしているのだ。結局、ルール委員会は、パーマーの主張を認め、このホールでの「3」のスコアを採用したのだが、このとき同伴プレーヤーだったのがベンチュリというわけなのだ。 「あのとき私はパーマーに『最初のボールを打つ前に、第2の球をプレーすることを宣言しておかなければいけない。もし最初のボールがチップインしていたら、第2のボールを君は打っていたのか?』と言った」ということで、ベンチュリはスコアカードに署名するのを一度は拒否したが、最終的には、マスターズ委員会のルール委員に促されてサインをすることになり、パーマーは1打差(ベンチュリは2打差で4位)で優勝しているのだ。 ちなみに、一昨年に出版した「プレーイング・バイ・ザ・ルール」の中でパーマーは「私はゴルフルールに従ったまでのことだ」と語り、12番ホールでは最初のボールを打つ前に、第2のボールをプレーすることを宣言していると書いていることから、それを読んだベンチュリが、今になって、このことを蒸し返したのかもしれない。 結局は、第2の球のプレーの宣言をいつ行ったかの、言った言わないの水掛け論になってしまうのだが、公式には、ベンチュリが、パーマーのスコアカードにサインをした時点ですべては終わっているのだ。 「終わったことは終わったこと。それが間違っていようと、ルール委員会が裁定したことが最終決定で、それに対して、パーマーに責任を押し付けることはできない」とUSGAのルール委員会のシニアディレクターであるトム・ミークス氏が語るように、試合が終わってしまえば、どんなことがあったせよ、その結果が覆されることはない。それを言えば、T・ウッズがプロデビューした年にウォルトディズニークラシックで使用していたパターが違法であったとか、あるいは現在のUSGAの会長が、10年前、オークモントでの全米オープンで優勝したE・エルスに対して下した裁定(遠くにあったテレビカメラクレーンがプレー線上にあるとして、より有利なライへのドロップを許した裁定)なども問題になってくるはずだ。 もっとも、ベンチュリは著書の中で一度も「チート(cheat=ごまかす)」という言葉を使っておらず、問題が大きくなった後、「パーマーは決してチートしたわけではなく、第2の球を誤った方法でプレーしただけ」と、「誤解」を招いたことに対し謝罪している。 このままではゴルフそのものの尊厳までが損なわれると感じての謝罪かもしれないが、ともあれ、この謝罪で、事が収束していくことを願うばかりだ。