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週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。
内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。

週刊ゴルフダイジェスト 5/4号
2004年更新
華やかな舞台の裏で、大会期間中に悲劇
ワトソンのキャディ、ブルースが死去
 先のマスターズ期間中、華やかなその舞台裏で悲しいニュースが駆け巡った。トム・ワトソンのキャディを30年間務め、昨年1月、ルー・ゲーリック病(筋萎縮性側索硬化症/以下ALS)を宣告され、病と闘っていたブルース・エドワーズが、大会初日の早朝、還らぬ人となったのだ。

 訃報に接した朝、ワトソンは練習グリーンでアンディ・ビーンにこう励まされている。

「悲しいだろうけれど、挫けず、あそこにいるベン・クレンショーと同じことをやりたまえ」と。クレンショーは95年、マスターズ前週に、生涯の師であるハービー・ペニックの死に直面しながら、見事復活優勝を飾って感動を呼んだ。

 残念ながら今回ワトソンはクレンショーの再現はできなかったが、いつもと同じ笑顔で淡々とプレーする彼の姿は詰め掛けたパトロンたちの涙を誘った。

「先週ブルースからeメールが届き“マスターズには僕のヤーデージブックを忘れず持っていくように”と書かれていました。出場を辞退する気持ちはなかったか? と聞かれますが、彼のためにも出たかった。ブルースお手製のヤーデージブックをズボンのポケットに忍ばせて1番ティに立ったとき、私ははっきりと彼の魂がそこにあるのを感じました」

 奇しくも開幕前夜、不屈の闘志で病と闘うブルースに対し、全米ゴルフ記者協会からベン・ホーガン・アワード(賞)が授与され、危篤状態の息子に代わり父親のエドワーズ氏が代理受賞。そのわずか数時間後にブルースは、入院中のポスピスで静かに息を引き取った。

「ALSを宣告されたとき、彼は私に“クワッド(1ホール4オーバー)を叩いちゃったよ”と言いました。私は言葉を失いましたが“諦めなくてもいい。すぐイーブンパーに戻せるから”と答えたものです。彼は自分の死期を悟りながら、人を笑わせることを忘れなかった」

 ALS患者は世界に3万人いると言われるが、残念ながらまだ特効薬はない。次第に筋肉が萎縮し、満足に喋れなくなる残酷な難病を憎むワトソンは、昨年、賞金の中から100万ドルをALS研究に寄付した。

 ミケルソンのキャディ、ジム・マッカイはブルースのことを「キャディ界のアーノルド・パーマーだった」と表現する。ゴルフ界の発展に多大な貢献をしたパーマー同様、面倒見が良く、無駄口を叩かず、新参者にも親切、だが仕事には厳しく、つねに最善を尽くしたブルースは、帯同キャディの地位を上げた。

昨年のマスターズで私のバッグを担いだ後、ブルースは駐車場で泣いていました。これが最後のマスターズだということを、彼は感じていたんでしょう」

 4月8日午前6時26分、彼が最も愛したマスターズの初日にブルースは天国に旅立った。享年49歳。早過ぎる死。

「彼は楽しいことが好きだった。死を悼むより、生きていた自分の姿を覚えていて欲しい、と思っているはず。悲しいけれど、笑って送ってあげたい」

 マスターズ期間中、選手たちは黒いリボン(喪章)を身につけ、ブルースの死を悼んだ。それは彼がいかにPGAツアーの選手や関係者に愛されていたかの証だった。

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