週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。
優勝したイは、じつは韓国アマ王者だった。その実績から日本ゴルフ協会の特別承認選手として今大会に出場していた。 イの優勝は近年世界で巻き起こるコリアンパワー旋風の延長線上にある。今年のマスターズではチェ・キョンジュがアジア最高位となる3位に入賞、米女子ツアーも、ここ数年パク・セリやグレース・パークらの韓国勢がシード選手に多数名を連ね、日本男子ツアーでもS・K・ホがメジャー大会を2連勝中で、年間グランドスラムも囁かれるほど。韓国人が日本アマを制するのも時間の問題だったのかもしれない。 大会最年少優勝記録(73年中嶋常幸)も1年6カ月、あっさりと更新されてしまった。 この韓国の実力者の前に一歩及ばなかったものの、14歳伊藤涼太の実力は本物だ。 伊藤を小4からコーチとして見続けて来た内藤雄士は、丸山茂樹が出場する全英オープン出発前日に伊藤の応援に駆けつけ、こう語った。 「初めてスウィングを見たとき、すでにスウィングはほぼ完成されていました。ゴルフを始めたときから見ている涼太のお父さん(博昭氏・35)の指導方法も正しい選択だったと思います。短くて軽いクラブを体の成長とともに長く、重くしていく点が私の考えと一致していました。スウィングが素晴らしいのはもちろんですが、涼太のもっとも優れたところはスコアを作る能力です。ショートゲームは抜群に上手いですからね」 タイガー・ウッズに基礎を教えたジョン・アンセルモ氏も4年前本誌の企画で伊藤(当時10歳)のゴルフを見て、「タイガーの10歳時よりリョータは上手い。私が教えたいと絶賛したほどだ。ただ、今大会、それで涼太は本調子でなかったというから驚きだ。 「ここ1カ月ぐらいボールがつかまっていませんでした。内藤コーチに日本アマの直前に見てもらったら、テークバックでフェースがシャット、それにトップで上体が左サイドに傾いている、ダウンスウィングで右肩が下がってギッタンバッコンになっていると言われて。それで、ドリルをひとつ教わったんです。両手を10センチくらい離して握ってボールを打つドリルです。フィニッシュで(飛球線に向いた)胸の正面にそのグリップが真っすぐ立つようにするのがポイントでした。それを日本アマの大会中、ずっと練習していたら少しつかまりが戻りました。それとパットも調子が悪かったんですが、矢野東(内藤の弟子)さんに、パッティングを練習するときはスライスラインもフックラインも打たないで、ストレートラインを探して徹底的に打て、と言われて練習したら、思った以上に入るようになったんです」 男子ツアーでマンデーを勝ち上がって実力で出場権を得、本戦での予選通過はまだ果たしてないものの、もう一歩の実力。ツアープロたちから影響を受けて、経験を積むことは伊藤にとっても価値がある。とすれば、現在、男子ツアーには年齢制限がないだけに、中学生でプロ転向して「中学生プロ」誕生も夢ではない。 しかし、プロ転向について内藤はきっぱりと、「時期尚早! 体もできていないし、高校生になってプロとして戦える力ができてからで遅くはありません」と言う。 父・博昭氏も「涼太は準優勝で頑張ったけど、やっぱり大学生の強い子と比べると、体も足りないし、技術もまだまだ。プロ入りなんて、まだ考えていません。それより、強い選手と一緒にゴルフができる環境で育てていきたいですね。ナショナルチームに入って大学生と腕を磨くとか、それができなければアメリカの高校に進学することも考えてます」 伊藤涼太は7月29日、ロス近郊で行われる全米アマに予選から挑戦することを決めた。まだ14歳、あと何年後にプロとして活躍しているかわからないが、「世界の丸山」の跡を継いで「世界の伊藤」に成長してほしいものだ。