E・エルスとV・シンとどちらが強い? 米ツアーでは、賞金王やプレーヤー・オブ・ザ・イヤーなどの各賞をほぼ手中に収めたシンだが、これに対して、ヨーロッパツアーの賞金王に王手をかけたエルスが、ワールドランキングのトップの座をかけて、猛追している。
なにしろエルスは、先のWGCアメリカンエクスプレスで、優勝し120万ドルを手にしたかと思ったら、今度はワールド・マッチプレーで、100万ポンド、約2億円のビッグな35歳の誕生日プレゼントをものにした。わずか2週で、約3億3千万円。確かに米ツアーでは、年間10億円を超える賞金を獲得しているシンには及ばないが、今年1年の世界中での獲得賞金では、シンの965万ドルに対して、エルスは751万ドルと、逆転もありうるところにまで、迫っている。
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「当てにならない」ミケルソンより強いエルスに期待がかかる |
しかも、米ツアーにしても、シンは今季出場26試合で、1試合あたり日本円にして約4000万円を稼いでいるのに対して、エルスの方は、メジャーなど、トッププレーヤーが出場する試合を中心に15試合しか出ていない。つまり、1試合あたりでは、約4128万円とシンを上回る活躍を見せているのだ。
米ツアーでの平均ストローク数では、シンの68.92に対して、エルスの68.96とほぼ甲乙がつけがたく、ある意味では、実力伯仲。新婚旅行でバケーション中のタイガー・ウッズを尻目に、ワールドランキングでは、完全にこの二人のトップ争いの様相を呈し始めたといってもいいだろう。
しかし、そのワールドランキングでは約1.5ポイント差で、エルスがシンに続いているが、人気やギャラリー動員数では、やはりエルスの方が上ということになるだろう。これに関しては、正確な数字こそ出ていないが、少なくとも米PGAツアーでは、視聴率アップのためにエルスの出場試合数を増やそうと必死になっている。
というのも、マッチプレーの直前に、PGAツアーがエルスに対して「今年最低20試合は、米ツアーに出場しなければ、米ツアーの来年のツアーカード(出場権)を失うことになる」といった厳しい内容の手紙を送っていたのが、明らかになったからだ。これに対してエルスは、「ここ数年間で、世界のゴルフ界が変わってきているのを、PGAツアーは理解する必要がある。アメリカ以外にもゴルフが存在しているし、自分も世界のゴルフの一翼を担っているんだ」と反発。マッチプレーで発奮したのも、ある意味ではアメリカの外で、エルスが必要とされていることをアピールするためだった、と見ているゴルフ関係者もいるくらいだ。
南アフリカ出身のエルスは、南アツアーには何試合でも出場できるが、ヨーロッパツアーに出場するためには、アメリカの最低試合数15試合を消化した上で、米ツアーの許可を得なくてはならない。具体的には、ヨーロッパツアーに出場した試合数と同じ数だけ、余分にアメリカでもプレーしなければツアーカードを失うという、米ツアーの内部規定があるのだ。
「私は家がイギリスにもあり、自分だけ問題にされるのは心外だ。たぶんPGAツアーのコミッショナーと直接話し合うことになるだろうが、基本的には自分はどこの国のツアーにも迷惑はかけていない」(エルス)
とはいえ、PGAツアーにすれば、来年のツアーを巡るテレビ放映権の交渉を目前に控えており、T・ウッズが不調の今、頼りになるのは油の乗っているエルスということになるのだろう。シンの人気の有無はともかくとしても、すでに41歳のシンの選手寿命や、ここ一番当てにならないフィル・ミケルソンのことを考えれば、やはり、エルスにより多くの試合に出てもらわないことには、視聴率が確保できないというのが本音だろう。
いずれにしても、シンとエルスのワールドランキングのトップ争いが話題になったり、エルスの出場試合数が問題になったりと、世界のプロゴルフ界は、すでに「ポスト・タイガー」に向けて動き出しているようにも見えてくる。それだけ、エルスやシンが、タイガーに勝るとも劣らない実力を蓄えてきたという証拠なのかもしれない。
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