PGAオブ・アメリカのジム・アウトレイ事務局長が、引退を表明した。といっても、実質的にPGAを後にするのは、契約の切れる18ヶ月後の2006年の夏ごろと見られている。しかし、なんといっても、アウトレイはPGAオブ・アメリカを立て直した人物。それだけに、彼の引退が、アメリカのゴルフ界にどんな影響を与えるかが、注目されている。
PGAオブ・アメリカというのは、アメリカのクラブプロ達が作っている協会。PGAツアーを切り離して以来、マイナーな組織となってしまっていたが、今回、引退を表明したアウトレイが、この協会を再興させたといっても過言ではない。
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大手メーカーが出展しなくなってきた |
実際、アウトレイがPGAオブ・アメリカの事務局長に就任した1987年には、同協会の年間予算は1230万ドルだったが、今年の予算は約2億ドルと、過去20年で16倍という目を見張る発展を見せているのだ。それだけではない。なんと同協会には、いわば貯金のような形の1億2370万ドル、約130億円の予備費が、蓄えられている。それもこれも、アウトレイの在任期間中に作ったもので、一方では、協会が金儲けに走りすぎたという批判はあるものの、片やPGAオブ・アメリカをPGAツアー、USGAと並ぶ3大リッチ・ゴルフ組織と育て上げた貢献者といわれている。
PGAオブ・アメリカは、一般には全米プロの主催者として知られているが、もう一つの大きな看板は、PGA用品ショーだ。アウトレイの最大の功績は、このショーの建て直しに成功したことにある。知ってのとおり、PGAショーは、世界最大の用品ショーで、見本市と受注会を組み合わせたもの。かつては、各メーカーが春と秋に開催されるショーに新製品を発表し、年間の受注の50パーセント以上をこのショーで売り上げていた。こうしたショーの重要性に注目したアウトレイは、ショーの巨大化とともに、ショーへの出展料金の値上げに成功させた。ある意味では、メーカーとクラブプロが、用品の売買をするために、同協会が会場の世話をしていただけだったものを、利益を生む集金マシーンに変えてしまったのだ。その上で、5年ほど前にショーの開催権利を専門の業者に100億円前後の金で販売するという離れ業をやってのけた。
それが、現在の予備金となっているのだが、結局、PGAショーへの出展代が高額化したことで、当初は大手メーカーばかりが目立つショーになり、ある意味では中小メーカーが切り捨てられる結果になってしまった。しかしその後、大手メーカーの多くが独自に受注会を開催するようになると、ショーへの出展を取りやめるケースも出てきて、ショー自体が衰退し始めてしまった。
もちろん、ショーが衰退してもPGAオブ・アメリカはその開催権利を売ってしまっているために、大した被害はないのだが、これによって大手メーカーと中小メーカーの格差が大きく開いてしまったことは否めない。ちょうどアメリカゴルフ界の景気後退と重なったこともあり、勝ち組、負け組の差がはっきりしてしまったというわけだ。
世界最大のシャフトメーカー、トゥルーテンパーが、先ごろ今年第3四半期までの売り上げを発表したが、昨年に引き続き、売り上げ、利益とも落ち込みを見せたという。「多くのメーカーが新製品の発表を控えていることから、来年の展望は明るい」(同社のS・へネシー社長)ということだが、ある意味では、ようやく明るい展望が開けてきた中での実力者の引退話。年収1億円といわれるPGAオブ・アメリカの事務局長の後任選びは、そう簡単にはゆきそうもない。
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