外資と国内勢によるゴルフ場の取得合戦が熾烈だが、そんな中、業界内で密かに注目されている元気な国内企業がある。東京建物がその話題の主だ。
東京建物は旧安田財閥の中核を成す会社で、明治29年に設立された老舗企業。多くの大手不動産会社がバブル期におこなったゴルフ場開発の後遺症で悩んでいる昨今だが、ゴルフ場案件に手を出さなかった同社は無傷のまま現在に至っているという 。
そんな同社が業界を驚かせたのは昨年のこと。大成建設系列の日光GPハレル(旧日光インターCC)と、つくでGCカムズ(旧つくでCC)を相次いで取得。その後も民事再生を申請したオリコ系列のホロンGCと鉄建建設系列の霞GCのスポンサーとなり、さらには内定している大京系列の東庄GCなど、「未公表のゴルフ場を含めるとその数は既に10コースを超えているのでは」(ゴルフ場再生に詳しい業界関係者)とさえいわれている。
では、何故この時期にこれほどまで好調にゴルフ場の取得数を増やすことができるのか?
というのも、ゴールドマン・サックスやローンスター、韓国企業といった外資をはじめ、森トラストやユニマットなど、ここ最近はゴルフ場の経営に名乗りをあげる企業が激増。経営破綻したコースの売却先を決める入札も熾烈を極め、入札価格が適正な評価額を大きく上回るケースも多い。皮肉なことに「プチバブル」とさえいわれており 、人気コースを取得するのは非常に困難な状況となっているのが現状だ。
もっとも、東京建物がゴルフ場を次々と取得できている背景にあるのは、高額な入札価格ではなく、「国内企業で、しかも東証一部の上場企業」という安心感、そして信頼性が大きく影響しているようだ。それを裏付けるのが、スポンサーとなったゴルフ場の民事再生計画に於ける、債権者集会での賛成率の高さ。ホロンゴルフ倶楽部、霞ゴルフ倶楽部ともに97パーセント以上もの賛成票を得て、民事再生計画が可決されている。
50パーセント以上の賛成票が必要となる再生計画の是非をめぐっては、議決票を持っている会員の意向を無視することはできない。それだけに、会員からの同意を得られやすい同社は、売却先としてはまさに格好のスポンサーというわけである。
また、「最近の高額な入札金額を見ていると、本当に再生できるのか疑問なコースも多い。二次破綻も十分あり得るが、東京建物はあくまでも経営改善の余地が残されたゴルフ場だけを選別し、いたずらに高い物件に手を出していない」(前出の関係者)という選択眼も、ライバル企業から注目されている。
既に100コース以上ものゴルフ場の鑑定評価業務(デューデリジェンス)をおこなっている同社は、そもそも不動産会社だけに、ゴルフ場の適正価格をはじき出すのはお手のもの。特に、従来では「土地の買収価格」や「コースの造成費」、はたまた「会員権の募集総額」などが資産評価の際の算定根拠となっていたのに対し、同社ではそれらを軽視して、『日々の営業』で得られる利益によって評価する「収益還元法」をいち早く取り入れ、業界内での評価を高めたという。
では、ゴルフ場経営の実績がなかった東京建物が、どうして『日々の営業』を基にした適正評価ができるのか?
1999年、その斬新なネーミングや画期的な運営内容が話題を呼び、連日大盛況となった吉川インターGCメッチャがオープンした。実はこのゴルフ場のオペレーションを手がけたのが東京建物。翌年には篠ノ井GPウィーゴをオープンさせている。これらのゴルフ場は現在、同社の手を離れているが、この時に得た運営ノウハウが現在も生かされていることは確かだ。
ゴルフ場にユニークなニックネームを付けるなど、同社の運営手法は独特。しかし、その裏にはプレー料金だけではなく、『だからこそ、あのゴルフ場に行きたい』と名指しで選ばれるための、商品力や企画力による『差別化』戦略が見え隠れする。
早くからインターネットに着目し、ゲーム機能や予約機能を持つホームページを開設。この他にも自動精算システムやモニター付きのカートナビゲーションシステム、自動スタート表示といった最新式のオペレーションマシーンを積極的に導入。今年からはスコア集計、そして競技ポイントの自動計算といった多機能装備が搭載された、世界初の最新カートナビを投入するとも噂されている。
「国内上場企業」と「商品力で勝負」というキーワードを武器に、次々とゴルフ場を取得する同社は、昨年末にゴルフ場事業専門のグループ会社、ジェイゴルフも設立した。ライバル会社にとっては驚異であっても、破綻コースの既存会員、そして一般ゴルファーにとってのメリットは大きいようだ。
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