高反発規制に対抗するかのように、ドライバーの新素材開発に拍車がかかっている。その中でも今一番注目されているのが、ナノテク素材だ。今年マルマンが4世代目となるエクシムナノⅡを、ヨネックスもヘッドとシャフトにフラーレン、ゴムメタルというナノテク素材を使ったナノブイを発表した。
ひとくちにナノテクといってもその領域は広く、宇宙開発、IT関連、医療、食品など様々な分野で研究開発されている技術の総称だ。ナノテクをあえて簡単に説明すれば、100万分の1ミリ(1ナノ=10億分の1メートル)という微細なレベルで物質の構造をコントロールし、今までにない特性を生み出す技術のこと。例えば、炭素原子の大きさは0・35ナノメートルなので、ナノテクの世界ではそれこそ原子1個1個の単位で物質の構造を組み替えるわけだ。「ナノテクノロジー」という表現を世界で最初に用いた物理学者エリック・ドレクスラー氏の「ナノテクを使えば何でも作れる」という言葉もあながち夢とは言い切れない。
ゴルフクラブに使われているナノテク素材のひとつにフラーレン(C60)がある。フラーレンとは60個の炭素原子がサッカーボール状(六角形と五角形の組み合わせ)に結合したものだ。フラーレンをはじめてゴルフクラブに応用したのはマルマン。01年に発売されたマジェスティ30周年モデルは、チタン合金にフラーレンを含有させ強度を高めることでクラウンを薄肉軽量化し、低重心設計を実現した。
ヨネックスのナノブイ・ドライバーは、シャフトにフラーレンが使われている。カーボン繊維を接着する樹脂にフラーレンを混入するとカーボン繊維と樹脂とが引き合う力が高まるという性質を利用し、樹脂の量を減らすことに成功。その結果、5パーセントの軽量化と強度アップを達成したのがナノスピードシャフトだ。
ナノブイにはもう一つのナノテク素材が採用された。夢の金属といわれるゴムメタルがそれ。トヨタグループのシンクタンクである豊田中央研究所が開発したゴムメタルは、文字通りゴムのような低弾性と高強度という相反する性質を両立したチタン合金で、シャフトに使用した場合、低ヘッドスピードでも速いしなり戻りが得られる。また、形状記憶チタンとも称されるように、しなった後、まったく同じ軌道で復元するため方向性も安定するというまさにシャフトにうってつけの特性を持つ。ナノスピドシャフトでは、プリプレグ(シート)状に成型したゴムメタルを最も効果の出るキックポイントに使用している。
ゴムメタルは、今のところゴルフクラブ用としては高価な素材だが、豊田中央研究所でも低コスト化技術の開発が進められており、シャフト全長に使用することでさらなる高性能シャフトの登場も期待できる。また、ゴムメタルの低弾性かつ高強度な特性は、反発係数を上げる効果が期待できるためヘッド素材としても大きな可能性を秘めている。
「新しいクラブを開発するときは、従来より性能の良いクラブを作るために、まず新しい素材を探します。その中から最良の組み合わせを見つけるのがクラブ開発者の仕事。民間のシンクタンクや大学など公的研究機関の最新の研究成果をキャッチするために常にアンテナを張り巡らせています」というのはヨネックス開発部の秋山達哉氏。また、キャロウェイゴルフのように、R&Dセンターに空力、物理、材料など専門分野を持つ技術者を200名以上集め、自社で基礎研究から生産技術の開発まで行っているメーカーもあり、技術競争はますます熾烈を極めるに違いない。
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