先週、ブリヂストンスポーツ(BS)がタイトリスト・ブランドを有する米アクシネット社を地元・デラウェア地区連邦地方裁判所に、ゴルフボールに関する特許権侵害で提訴した。BSは5年前にも、米キャロウェイ社に対して同様の訴訟を起こしている。そこにはソリッドボールの分野で、一貫して業界をリードしてきたという同社の矜持が垣間見える。
BSによれば、タイトリストの人気ボールである「プロV1」と「プロV1x」を始め、同「NXT」「NXTツアー」「DT SoLo」、そしてピナクル・ブランドの「エクセプション」の6種類のボールについて、BSが持つ特許を侵害しているとして、米国における製造・販売の差し止め、ならびに損害賠償を求め、現地時間7日(日本時間8日)に提訴を行った。
同社が侵害されたと主張するのは、多層構造ソリッドボールに関する10件の特許で、アクシネット側とは昨年から数カ月にわたって交渉を重ねてきた。ところが、結局BSが満足できる回答を得られなかったため、裁判所に持ち込まれた。
「アメリカのボール市場で、当社は弱小メーカー。そこで生き残り、シェアを広げていくには、他社にない高い技術力で存在をアピールし、差別化するしかありません。その技術力の証である特許の侵害に関しては、断固とした態度で対処していかないと、うちの存在価値が危うくなりますから」(広報室・嶋崎平人氏)
ちなみにアメリカでのシェアは、アクシネットの約50パーセントに対し、BSはわずか4パーセント程度という。4年前、米国で「MCレディ」がヒットしたときには12パーセント程度までシェアを拡大させたが、その後は下降線をたどっているようだ。
そうしたなかBSとしては高い技術力で差別化を図りたい。ところが、ルール上、ボールには厳しい規制が設けられている。そのため、今やどんなに小さな新技術にも莫大な開発費を要する。それが簡単に真似されたのでは、開発会社としては「やってられない」という思いもあったようだ。
また今回の訴訟では、アクシネット側が主張する4件の特許について「BSは特許侵害をしていない」もしくは「もともと公知の技術であり、特許は認められない」という訴えもあわせて行っている。
これに対してアクシネット側は「米本社はすぐにBSさんが主張する特許侵害はしていないというコメントを発表しています。それ以上のことは述べられる立場にありません」(アクシネットジャパン)とのこと。
ところで、前記のようにBSは00年夏に、米キャロウェイ社のウレタンカバー、多層ソリッドボールである「ルール35」に対し、同様の訴訟を起こしている。その裁判は1年以上もの時間を費やした末、01年秋に和解した。和解内容は非公開だが、業界関係者の話によれば、「キャロウェイ側がBSから有償で技術供与を受けることで解決した」ということのようだ。
今日、ソリッドボールはいわば「特許の塊」である。例えば、BSは「全世界で約600件もの特許を所有しています。そのうちの半分以上はアメリカでも認可済み、もしくは申請中です」(前出・嶋崎氏)という。
そこで新しく独自技術だけでボールを開発しようとすれば、最初から最後まで、既存特許の細かな網の目をくぐっていかなければならない。開発自体に膨大なコストがかかるうえに、結局、出来上がった製品が特許侵害で訴えられでもしたら、目も当てられない。特にアメリカでは、裁判費用も損害賠償額も巨額になるからだ。
メーカーとしてはそんな事態は絶対に避けたい。それならば、特許侵害が心配される箇所は、最初から供与を受けた方がいいということになる。実は、ボールメーカーの間では、水面下で多くの技術が供与されているという。
アメリカの業界関係者の間では、キャロウェイ社の場合、01年に発売した「CTU30」以降、ウレタンカバーボールはその構造からして、アクシネット社からライセンスの供与を受けているといわれている。
そうならば、同じような特許を数多く所有するBSとの間でも交渉がもたれているはずと、推測できる。しかし、この件に関するBSの答えは「ノーコメント」だった。
それにしても、薄い薄いウレタンカバーをめくると、その下では様々なやり取りが日々行われているのかも知れない。
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