ゴルフ場を競売で落札したものの旧経営陣が引き渡しに応じず、強制執行により急遽クローズに。そんな異常事態が、2月の末から千葉県内のゴルフ場で起きている。
問題のゴルフ場は、千葉県市原市の八房ゴルフ倶楽部。一昨年4月に競売に付されたものの、4度にわたり買い手が現れず、昨年6月、とうとう4度目の入札で、神奈川県の不動産業者・株式会社タクエーが4億9140万円で落札していた。
ちなみに一昨年の4月の入札の際の最低売却価格は20億1028万円。それが14億736万円、9億1058万円、4億9140万円と下げられていた。4度目の最低価格で落札されたことから、応札したのはわずかにタクエー1社であったことがわかる。
ゴルフ銀座と呼ばれる市原市にありながら、これほどまでに不人気なのは、「開場以来、いわくつきのゴルフ場」(地元の会員権業者)であるからとされる。
それはともかく、競落したものの旧経営陣はゴルフ場を占有し、ゴルフ場を引き渡さないという異常事態に。タクエー側の申し立てにより今年1月、裁判所は引渡しの催告を出したもののこれにも応じず、2月17日、いよいよ強制執行となった。
ゴルフ場をその時点でクローズ。従業員は予約の取り消しに奔走するかたわら、同月21日からは業者が入り、コースの改修作業等に入っている。
引渡しに応じなかった理由について旧経営陣は、「担当者がいない」と繰り返すばかりでノーコメント。これに対してタクエー本社では、
「先方(旧経営陣)の行為はまったく不当なもので話し合いにも応じず、そのために強制執行という法的手段を講じざるを得なかった。登記はもとより地権者の合意もほぼ99パーセント得ており、これでようやくスタートラインに立ててホッとしている。現時点でクラブハウス、コースの改修工事に入っており、5月初旬のオープンを目指している」(同社・営業部)としている。
さて同GCは、サンエー観光を経営母体に、昭和47年、飛郷CCとしてオープン。その後、昭和53年に日本国土計画に経営権が移り、バブル経済の始まる昭和57年には、アイチにより武道CCと名称を改めた。翌58年には三洋石油に。
同年、すぐに八大コーポレーション(旧八大産業)の手に渡り八房CCとして衣替えした。ところが平成4年に八大コーポレーションが、負債約1140億円を抱えて倒産。その後、平成5年、現在の八房GC(経営母体は同名)として再スタートを切った。
株の仕手筋として知られ、イトマン事件など経済事件でも何度か名前が上がり、ゴルフ場の買収にも積極的だった森下安道総帥率いるアイチ(平成8年に特別清算)。
「元祖地上げ屋と称される人物」(某経済紙記者)とされる故川口勝弘総帥率いる八大コーポレーションと、このゴルフ場に関して登場するのは、今は懐かしいバブル紳士たち。それは同時にこのゴルフ場が、錬金術の道具として翻弄された歴史でもあった。
実際に昭和57年、58年には転売が相次ぎ、会員は翻弄されることになる。相次ぐ経営交代により、会員数は6000人に。さらに八大傘下となった際には、正会員に対し求められた350万円の追徴金で紛糾。皮肉にもこれにより会員数を制限することにもなった。
さらに八大から経営交代し、八房GCに名称を変更した折にもコース改修を名目に800万円で新規募集を行い、また実現こそしなかったが1億5000万円でのロイヤル会員募集には、さすがに業界からも冷たい視線が浴びせられたものだ。アクセスもよく、コースのクォリティも決して低いわけではないが、この辺の『過去の負債』が応札する企業が少なかった原因とも見られている。
このあたりについてはタクエー本社も十分に承知しており、「名称も変更し、まったく新しいゴルフ場としての再出発を考えている。ゴルファーがゴルフを心から楽しめる、当たり前のコースを目指す」(前出・同社営業部)としている。
さて気になるのは、従来会員の権利である。競売により第三者の手に渡ったことで、法的にはタクエーに会員の権利を継承する義務は生じない。今回の落札した金額を、預託金債権者として債権額に応じ債権者で等分に配当してもらえば、法的には会員権も消滅することになる。もちろんこれはタクエーではなく、旧経営会社との債権債務の問題である。タクエー側では、
「実は現時点で会員制にするかパブリックにするか、社内で侃々諤々の議論をしている最中です。法的には会員権を引き継ぐ義務は弊社にはありませんが、『ゴルフを楽しむ』をキーワードに、会員の方も含めた様々な方からご意見を伺っていきたい。いずれにしても誰からもご満足いただけるコースとして再出発することが、私どもの使命だと考えています」(前出・営業部)
バブル経済の後遺症といってしまえばそれまでだが、マネーゲームに翻弄されたコースであるだけに、今後の再オープンに期待したい。
|