JGAが主催16競技で高反発ドライバーの規制を前倒しで適用することを発表したのは昨年12月。クラブメーカー関係者にとっても寝耳に水だったが、とくに中小メーカーにとっては死活問題になりかねない。
「競技に出る人がすべてじゃないし、ルール改正すら知らない人が多い。本当に低反発に切り替える必要があるのか」と率直な疑問をぶつけるのは羽鳥商会の羽鳥精一専務だ。
「商売になるのは飛ぶクラブ。飛ばないクラブに買い替える必要はない。これからは高反発と堂々と言えないけれど、クラブ自体は残るのでは」(羽鳥専務)。
同社では、ルール適合ドライバーの開発も行っているが、今年の適合リストに間に合うかどうかギリギリの状態。2種類のドライバーを開発するのは大きな負担だが、万が一、低反発に傾くような事態になれば、来年の商売に影響が出てしまう。「様子を見ながら」と言いつつも先行投資を行わざるを得ない苦しい状況だ。
晴れてルール適合クラブとして試合での使用が認められるためには、ボールと同様にR&Aにクラブを送り、テストを受けた上で公認リストに掲載される必要がある。しかし、その測定方法自体に疑問を投げかける意見もある。
中小の地クラブメーカーが多い富山県では、県の工業試験所がエアガンと測定器を導入するなど対応策を整えているが、それでも万全とはいえないようだ。
「R&Aの簡易測定では、重さや皮膜、表面硬度によっても測定結果が違ってくる。そもそもヘッドの個体一つ一つにばらつきがあり、その公差をどこまで認めるかという基準も示されていない」(中条/中条静男社長)。
過去に日本の大手メーカーとUSPGAの測定方法に大きな誤差が出たという事実も踏まえ、「いったい何を基準に作ったらいいか分からない」と不満を漏らすメーカー関係者は多い。
生産面においては、「極端に大きなヘッドを除けば、低反発モデルへの切り替えはいますぐにでも可能」(中条社長)だが、肝心の販売面での解決策は見つからないままだ。
「JGAもクラブ競技まで適用する必要はないと明言しているように、プロ用とアマチュア用は分けて考えるべきでは」(中条社長)などメーカーサイドからの提言を集約しアナウンスする場がないことも問題のひとつだ。
業界団体の日本ゴルフ用品協会にしてもルール適合を明示するシールを作成するなど、「ユーザーの混乱を避けるため」の施策は行っても、メーカーに対する支援策は何ら見出せない状況だ。
高反発規制により大手メーカー、とくにボールを作っているメーカーがますます有利になると見ているのはクラブ設計家の松尾好員氏だ。「クラブの性能を突き詰めていくと、クラブとボールのマッチングは無視できません。また、ボール開発の過程でクラブづくりのヒントを得られることが多いし、シミュレーションしてもボールのメカニズムが分からない限り、正確なデータはとれません」。
この他にも、情報収集能力の差も大きいという。かといって、中小のメーカーがにわか作りの低反発ドライバーを作ることに、松尾氏は警鐘を鳴らす。
「ここ4、5年、高反発しか考えてこなかったメーカーが急に低反発を作るのは無理でしょう。フェースを分厚くすればルールはクリアできますが、飛ばなければ意味がないものになってしまいます。また、メーカーはクラブを売るための目先の宣伝に走らない方がいい。いきなり低反発ドライバーが飛ぶと言ったら、いままでの高反発は何だったのかという不信感をユーザーに与えかねません」(松尾氏)
ならば、今後、中小メーカーが生き残るための道筋は?
「シャフトのしなり、ヘッドの重心などまだまだ研究開発の余地は大きいと思います。今後は最大飛距離ではなく、平均飛距離を上げる方向に行くのではないでしょうか。スウィートスポットでは反発が高くても少し打点がずれたら極端に飛距離の落ちるクラブもありますが、広い範囲で0.830ぎりぎりの反発性能を発揮するクラブとか、曲がりを少なくするとかいう手法が考えられます。例えばビギナーでも楽しんでゴルフができるクラブなら低反発でもニーズは高いはず。シニアやレディスに対象を絞ってもいいし、フリーウェートを積極的に使った個別フィッティングなど、小回りが利く中小メーカーならではのきめ細かい対応が決めてとなるでしょう」。
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