ビジェイ・シン(42歳)が「世界ゴルフ殿堂」入りすることになった。正式には、今年11月14日の殿堂入り式典を待たなければならないが、男性プレーヤーでは最も若い年齢での殿堂入りというだけでなく、そのいきさつを巡っても話題を集めている。
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努力の人
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話題となっている理由は、まず殿堂入りするには、まだ若すぎるのではないか? と噂されていることと、今回の殿堂入りが、イレギュラーな形で決定されたからだ。
米PGAツアーのカテゴリーで殿堂入りをするには、「40歳以上で、10年以上ツアーメンバーあること、そしてツアー10勝あるいはメジャー2勝以上」が条件となっている。この上で、世界のゴルフライターなどの投票が必要となるのだが、その投票で65パーセント以上を獲得しないと、殿堂入りを果たせない。
しかしこの投票で、その年に誰も65パーセントの票を獲得しなかった場合、最高の票数(50パーセント以上票数という条件付)を集めたプレーヤーが、選ばれるという規則が付け加えられたため、今回56パーセントの票を集めた42歳のシンが選ばれることになった。
フロリダの名誉の殿堂があるワールド・ゴルフ・ビレッジは、ゴルファーの観光名所にもなっているリゾートコースでもある。そのために、常に話題作りが必要で、殿堂入りを果たす人間が今年は誰もいない、という事態になっては困る。
それで殿堂入りの規定が、年々やさしくなっており、それに比例して、殿堂入りの価値が低くなっている、という批判の声が一部のゴルフ関係者たちから上がっている。
しかしこうした背景の中で、「昨年のすばらしいシーズンの後で、ゴルフに人生を捧げた一人であるシンの殿堂入りは、当然報われるべきもの」とT・フィンチェム・PGAツアーコミッショナーが語るように、あらゆる点で、殿堂入りに相応しいという意見が大半だ。
年齢の点では、確かに男性ではもっとも若いが、年齢規定のないLPGAのカテゴリーでは、アニカ・ソレンスタムがすでに殿堂入りを果たしていることを考えれば、不自然とはいえない。
それに、メジャー3勝、米ツアー25勝(殿堂入りが発表された直後のシェル・ヒューストンでの優勝をいれると26勝)というシンの記録は、昨年の殿堂入りしたT・カイトや一昨年のN・プライスの記録を上回るものだ。
その上に、シンはいま、一番油が乗っている現役バリバリのトッププロ。これからもあらゆる記録を伸ばしてゆくことは確実だろう。実際、93年に米ツアー入りしてから最初の9年間で9勝しているが、02年のシェル・ヒューストン、つまり39歳を過ぎてから、この3年間で17勝を挙げている。
今年のマスターズでは、ワールドランキング・トップの座をタイガー・ウッズに奪還されてしまったが、ことティショットに関する限り、平均飛距離でタイガーより飛ばしていたし、フェアウェイキープ率でも、タイガーより10.8パーセントも上回っていた。
今年、ツアーで記録したシンのロンゲスト・ドライブは、42歳にしてなんと396ヤード。シンが練習の虫であることは、良く知られているが、まさに普段の努力の賜物で、ここまで登りつめた。タイガーが40歳になったときに殿堂入りするのは間違いないが、それ以外の現役プロでは、今のところシンを除いては考えられないだろう。
「わたしの出身を考えれば、殿堂入りなんて、夢にも思わなかった。今は言葉もない。殿堂入りしているすばらしい人々の仲間入りできるなんて、すごく名誉なことです」と、謙虚に語るシン。
多くの米ツアーのトッププロたちが、大学のゴルフ部にスカウトされ、卒業と同時にスポンサー契約に恵まれるのと違い、フィジーの飛行場の滑走路脇でゴルフを練習し、アジアでレッスンプロをしながら力をつけ、欧州、米ツアーで成長して来たシンは、異色の存在であることは間違いない。
ある意味では、中年ゴルファーの星であり、貧しい国のジュニアゴルファーの星でもある。こうしたシンのようなプレーヤーが殿堂入りをすることで、世界ゴルフ殿堂の価値は高まったと言えるだろう。
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