ほんの7~8年前には「ゴルフ場なんて誰も買わない」と言われていたのに、今やどこかのゴルフ場が買い手を募れば、最低でも十数社が殺到するほど。東京バーディクラブクラブでは50億円、鳩山CCでは44億円という高値まで飛び出した。ゴルフ場の値段は、一体どうやって決まっているのだろうか。
「ゴルフ場の評価は、そのコースからどれくらいの利益を稼ぎ出せるのかで決まる」(M&Aに詳しいグッドゴルフの栗原聡代表)という。
稼ぎ出せる利益とは、今現在稼ぎ出している利益のことではなく、これから自分たちが経営に入った場合、現状かかっているコストをどこまで下げられるか、追加の設備投資はどのくらいまで可能か、入場者数をどこまで引き上げられるか、などといった要素を検討して弾きだした利益の見通しに、運用利回りや掛け目を考慮して評価を出す。
例えば、あるコースで年間1億円の利益が見込める場合、運用利回りが10パーセントは欲しい、掛け目は8掛けくらいに、となると、評価は8億円。いや利回りは6パーセントでいい、となれば掛け目が8掛けのままでも13億円。
民事再生や会社更生、破産などの法的手続きで売りに出されるだけでなく、最近では減損会計の強制適用をきっかけに、系列ゴルフ場を手放す上場会社も続出、経営が交代したゴルフ場は年間約150コースにも上る。大半が売買価格は非公開だが、関係者から漏れ聞こえてくる金額は、首都圏、大都市圏の優良コースだと、10億円~20億円あたりが主流だ。
経営努力で赤字コースを黒字コースに引き上げることは可能でも、ゴルフ場で上げることが可能な利益にはある程度限界があるので、結局のところ、10億円~20億円前後のゾーンに収まっているということなのだろう。
空前の高値となった東京バーディクラブや、鳩山CCのケースも、実質的にはこの10億円~20億円前後のゾーンに収まっている可能性が高い。
ゼネコンのフジタと商社のトーメンが合弁で開発した東京バーディクラブの場合、ユニマットグループへの売却価格は約50億円と言われるが、約580名いる法人会員は預託金ごと引き継がれている。
売却はコース経営会社の株式をフジタ、トーメン両社から買い取った上で、推定で約40億円と見られる預託金債務も引き受ける形をとっている様子なので、売買価格の真水部分は実質10億円ということになる。
首都圏の優良コースだけに、退会を希望する会員が相当数出るということはまず考えられないので、預託金の返済を迫られる可能性は極めて低い。
「実質この値段ならかなりお買い得」(ゴルフ場のデューデリジェンス業者)という声も聞かれる。
また、鳩山CCのケースでは、会社側の再生計画案としてスポンサー候補・森インベストメント・トラストから提示されたのが44億円。債権者の大半を占めていた会員側が、スポンサー抜きの自主再建型の計画案を提示、会員側計画で可決されたため、この価格での売却は幻に終わった。
だが、この44億円という金額も、実質的にはそうべらぼうな金額ではない。継続会員には配当金の8割の再預託という条件がついていたからだ。
スポンサーが払い込む44億円は、配当金として債権者である会員に支払われながら、継続希望者からはまた会社へ再預託されて戻ってくる。超人気コースだけに、退会希望者が多数出る可能性は極めて低い。こちらもまた真水部分は推定で20億円前後と見られている。
ゴルフ場買収に新規参入を図る日本企業が急増する中、今後ゴルフ場の値段はどうなっていくのだろうか。
「今は『普通』のコースが上がりすぎの状態だが、基本的に『良いコース』の値は下がらない。ただし、ゴルフ場は都心のオフィスビルと違い、非常に指向性の強いものなので、『良いコース』の基準は人それぞれ。このエリアでもう1コースないと非効率だから買うという判断もあるだろうし、ずっと持ち続けるのかどうかということも判断を左右する。個人事業主であればやっている事業や趣味、夢といった要素も絡み合う」(前出のグッドゴルフ・栗原氏)。
いずれにしても買い手はかなり考えて買っている。あそこは値付けが甘い、ここは厳しい、などといった『買い手』の値踏みも進んでいる。バブル期のような、むやみに買う、という時代は二度と来ないことは間違いないだろう。
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