ミズノが独自開発し、6月23日から発売するクロスエイトD301とC301は、コア部分にリブ状の突起を設けた新構造の3ピースボールだ。
業界内で噂に上ることもなかったミズノのボール開発プロジェクトは、1990年にスタートし、ミズノ社内でも極秘裏に進められてきた。
スポーツ用品総合メーカーとして知られるミズノは、もうひとつ卸売り業者としての顔があり、たとえばゴルフ場売店などに独自の販売ルートを開拓し、ブリヂストンやダンロップなどのボールも扱ってきた。
そこでボールの売り上げが相当の割合を占めるのを見て、「なぜ自社でボールを作らないのか」という声は事あるごとに上がっていたという。
ただしボールは、開発・生産に莫大な投資が必要で、クラブと違って新規参入が難しい分野だ。実際、最近ではキャロウェイの例があるくらいで、あとはM&Aによる事業買収か委託生産方式に限られてきた。
また、ボールは特許の固まりといわれ、開発には大きな壁が立ちはだかる。外形、大きさ、重量などが事細かに決められており、外観上の差異を出しにくいのも新規参入を阻んできた要因だ。
「明らかに違うものでなければ勝負できない」という水野正人社長の大号令の下、クロスエイトの原型ができあがるまでに約10年の歳月を要した。
技術上のポイントはコアの形状にある。コアに中間層をかぶせる際、コアを中心に持ってくるのが非常に難しい。芯がずれると飛距離や左右のぶれに直結する。それを解消するためにコアに中間層の表面まで達するリブを設けたのがクロスエイトだ。
また、このリブにはバックスピンを抑える働きもある。インパクトでねじれたリブが復元しようとする力が、順回転の方向に作用するためだ。
さらに、同時にボールを上方向にリフトさせる力が発生するため打ち出し角も大きくなる。これによってドライバーでの飛距離は5ヤードアップするという。
ミズノでは、クロスエイトの初年度販売目標を10万ダース、5年後に50万ダースとしているが、これは現在の国内市場(年間約1000万ダース)の中でそれぞれシェア1パーセント、5パーセントに相当し、目標どおりなら5年後にはブリヂストン、ダンロップ、タイトリストに次ぐ計算だ。
国内ボール市場が伸び悩む中、新たな競争相手の出現に他メーカーの反応もさまざまだ。
「ボールは消耗品なので新しい製品が出たからといって全体の消費量が増えるものではない。シェアの奪い合いがますます激しくなる」
と困惑する声も聞こえる一方、
「歓迎です。ユーザーの選択肢が広がるのはいいこと。ミズノさんの新規参入でボールに対する関心が高まれば活性化につながります。ミズノさんも相当力を入れているようなので、われわれとしても負けないものを作ります」(ブリヂストンスポーツ/嶋崎平人氏広報室長)と好意的な捉え方もある。
また、別のメーカー関係者は、
「クラブはマルチピース化、ウレタンカバー登場などボールに合わせて進化してきており、ボールの飛びのメカニズムを解析ができなければクラブ開発は難しくなっています。他社のボールを購入してからクラブ開発をしていては後手後手に回ることになります。そういった意味で今後のミズノさんはクラブメーカーとしても一層手強い存在になりそうです」と違った意味での効果を指摘する。
ミズノは1934年から数年間、ボール事業を手がけたことがある。
それから70年後のいま、ミズノオープンに合わせて発売日を設定するなど、大々的にプロモーションを行っていく考えだが、オピニオンリーダーであるプロや上級者ほど変えづらいのがボールのブランド。
軌道に乗せられるかどうかは、性能はもちろんのこと、いかにブランドイメージを構築できるかにかかっている。
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