6月16日から始まる今年の全米オープン。会場がパインハーストリゾートということもあって、99年にここで優勝した故ペイン・スチュワートのことを想い出す人も多いだろう。そんな折、スチュワートが亡くなった飛行機事故の民事裁判が5月初旬にフロリダでスタートし、ちょうど全米オープンが終わる頃に結審が予定されていることから、裁判の行方が注目されている。
「ゴルフ界最大の劇的な死」といわれたスチュワートの飛行機事故。覚えている人も多いだろうが、事故が起こったのは、99年の全米オープンから4カ月後の10月25日。
自宅のあるフロリダからプライベートジェットでトーナメントに向かうために、マネージャーらと一緒に空港を飛び立ったのだが、離陸直後、キャビンの気圧が落ち、乗員全員が意識不明となったまま、音信不通になってしまった。そして、その数分後には、そのまま全員が死亡したと推定される。
飛行機は、オートパイロットでそのまま燃料切れになるまで、サウスダコダ州の北方まで飛び続けたが、一時は飛行機が市街地に落ちるのではないかと懸念され、米空軍のジェット機が伴走し、必要なら撃墜することまで検討されたという。
そんな状況だったため、スチュワートらを乗せた飛行機は、飛行中の段階から墜落するまで、逐次テレビで放映され、ゴルフ界のみならず全米中の話題にもなった大事件だった。
今回の裁判は、スチュワートの家族と同乗していたマネージャーのロバート・フラリィ氏の家族などが、事故を起こした飛行機製造会社のリアジェットを相手どって起こしたもの。スチュワート側の弁護士ダニエル・バークス氏によれば、
「リアジェットはなによりもその信用を裏切り、メーカーとしての責任をまっとうしていない」として、飛行機のデザイン上の欠陥、気圧調整器のテスト不足、その調整器やバルブの脆弱な素材などを問題にして戦う一方、金額は明らかにされていないが、数十億円もの損害賠償を求めている模様だ。
同弁護士の試算では、スチュワートが生きていれば、獲得賞金や契約金などで2億ドル(約210億円)は稼いだ、としている。当時42歳だったスチュワートが、全米オープンに優勝した直後の事故とはいえ、その後これだけの金額を稼いだかどうかは不明だが、問題は搭乗していた事故機にある。
タイムシェア契約とはいえ、自家用ジェット。金額の問題はともかく、普通の飛行機事故であれば航空会社から保証金が出るだろうが、プライベートジェットということもあって、飛行機の製造会社を訴えるしか、裁判をする相手がいないのだ。
リアジェット側の弁護士ロバート・バンカー氏によれば、「気圧調整器には、何の問題もなかった」としているが、いずれにしても水掛け論ということにもなりそうな雰囲気だ。
実際に事故が起きたのだから、どこかに問題があったのは間違いないだろうが、裁判の争点はスチュワート側の整備不足か、飛行機そのものの欠陥によるものか、という点で争われるだろう。
話は変わるが、99年の全米オープンでは、2位にP・ミケルソン、3位にT・ウッズが入っている。
ミケルソンは当時、長女の誕生間近で、「メジャーの優勝より、出産に立ち会うほうが大切」と、優勝争いの最中でも試合を棄権する、と語っていたのが印象的だった。そして今年のマスターズのパー3コンテストで、そのときに生まれた5歳になるアマンダちゃんをキャディにして、話題を集めていた。
その一方、タイガーも今年のマスターズでは、スウィング改造がほぼ完成し、「今がちょうど99年の前半戦のときのような感覚だ」という発言をしていた。
もしもスチュワートが生きていたら、99年から2001年にかけてのタイガーの第1黄金期を阻止していたかもしれないが、そうした意味でも「パインハーストの全米オープン」というのは、意味深いものだ。ひょとしたらスチュワートのカース(呪い)が、今年の全米オープンに影響を与えるかも……。
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