「もっと練習したい!」14歳のスーパーアマチュア、伊藤涼太から、そんな声が聞かれた。中学生でありながら、ツアー競技に数多く出ている伊藤は、練習環境の整ったトーナメント会場で遅くまで熱心に練習している。だが欧米に比べると、日本のトーナメント会場では、練習したくても出来ない状況があるようだ。
かつてタイガー・ウッズがプロに転向したとき、「アマチュア時代と何が変わった?」と記者に聞かれて、「練習時間が増えたこと」と答えていた。タイガーのみならず、「練習の鬼」の異名をとるビジェイ・シンなど、一流ゴルファーになる条件は才能に加えて、やはり練習量の多さにある。
しかしこの夏、あるトーナメントで伊藤涼太が遅くまで練習していたとき、「早く帰らせろ」とコース関係者が囁くのを記者たちが耳にしている。
現状はどうなっているのだろうか。調べてみると、男女ツアーともに、練習時間に関する規定はなく、各トーナメントに任せているようだ。
運営関係者によると「以前は最終組ホールアウト後、1時間半後まで、というだいたいの線はあったが、今では日没までのケースも多い。ただ、球拾いの都合もあり、早めにクローズする場合もあるが、選手が打っている中で遠くから拾い始め、その後も練習している選手に関してはどうぞご自由に、ということもある」と、かなり遅くまで練習できるようだ。
では、最終日はどうか。こちらは、スタート前以外はできない試合のほうが多いようだ。
コースの練習場をそのまま使っている場合や、広い敷地がある場合はとにかく、ギャラリーの増える最終日の午後は、練習場をつぶして駐車場にするケースや、女子ではスタート前に使用ホールを練習場にしているケースもあるなど、ラウンドに納得いかなかった選手が、そのまま打ち込む、ということは難しい。
練習環境のいい米国では、あたり前のように日没まで練習できる。予選落ちしてもそのまま次の会場へ移動することがほとんどなので、大会終了後にも打ち込める。そのため、移動前に練習する選手も多い。
国土の広さ、ゴルフ場が置かれた環境などの違いはもちろんある。トーナメントの成り立ちも、代理店、スポンサー、コース主導の場合が多い日本では、ツアー側が練習環境について強く主張できずに今日に至っていることから生じた日米の格差だが、それにしてもあまりにも大きな違いが実力差につながっているのは紛れもない事実だろう。
実際、外人招待選手が連戦する際に「日曜日に練習したいのに」と不満を漏らすケースもあり、この辺りに日本の練習環境の寂しさが浮き彫りにされる。
日本のプロで、この状態に不満を持つ選手もいるが、前出の関係者は「日が短いこの時期はとにかく、夏場などは日没まで練習している選手が、残念ながらほとんどいないのが実情」と、これに甘んじている現実も明かしている。
今年、プロ入りした諸見里しのぶが、ジュニア時代、初めて米ツアーに出場した時のことをこう振り返る。
「クラブハウスの目の前に大きな練習場があって、芝からいくらでも打てる。練習嫌いだった私が『うわ~! 早く練習したい!』って思ったほどでした」
世界に通用する選手をどんどん送り出すためにも、こんな環境ツアーだけでなく、コースや関係諸団体が力を合わせて作っていく意識&環境改善が必要な時期に来ているようだ。
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