ボールの飛び方は物理的条件(初速、打ち出し角、スピン)で決まる。クラブメーカーが反発係数や重心設計の技術を競い合ってきたのはそのためだが、バックグラウンドとなるのは素材開発や応用技術など化学的なアプローチだ。 そのせいか最近、ドライバーやアイアンヘッドの複合材料としてゴム、エラストマー、ゲルなどの非金属素材が俄然注目を集めている。
カーボンが主に軽量化のために採用され、性能向上には間接的な役割を果たしているのに対して、新しい複合素材はそのものの性質をより積極的に利用しているところに違いがある。
ブームの先駆けといえるのはブリヂストンのV-IQシリーズなどに使われているターボラバーだ。
「パターのフェースインサートに樹脂材が使われているのを見て、チタンフェースアイアンのフィーリング向上に使える材料ではないかと考えたのが最初です。もとは打感を柔らかくする発想でしたが、検証を重ねるうちに、ソールに装着してヘッドの振動を抑えることで飛距離アップできたり、いろいろなポジションでさまざまな効果を期待できることがわかってきました」(ブリヂストンスポーツ・ゴルフクラブ商品開発部マネージャー/今本泰範氏)
クリーブランドゴルフとヤマハはゲル(ジェル)素材に着目した。ゲルは液体に近い組成を持ちながら、3次元の網目構造をとることによって、流動性がなく、固体同様に成形できる素材の総称だ。
クリーブランドのニューウェッジ・CG11ミルドのキャビティ部分には、シリコンを主成分とする透明なゲルが接着されている。
「アイアンに使う技術として、数年来研究してきたものの一つです。採用した理由は、振動吸収性能や耐久性に優れていたこと」(クリーブランドゴルフ・プロダクトマネージャー/出蔵正一氏)
また、ミルド加工を売り物とするだけに、そのデザインがよく見えるように素材自体の透明性もポイントとなった。
ジェルテック社のαゲルは、身近なところではソフトコンタクトレンズやスポーツシューズのクッション材などに使われているほか、最近は地震対策用の制震材としても脚光を浴びている。
ヤマハは、インプレスX410Vアイアンに高反発のマレージングフェースを採用する際、打感の硬さを解消するためにフェースとボディの間にαゲルをはさみ込んだ。
「硬質ゴムやプラスチック系の素材も試しましたが、振動吸収性能はもちろん、加工性にも優れているところが決め手となりました。温度変化や弾性疲労にも強く、自社でも10万発の耐久テストでも何の問題も起きませんでした。他の候補よりも重量は数グラム重いがそれを補ってあまりある性能です」(ヤマハ・ゴルフ事業推進部/土田厚志氏)
同じくマレージングフェースを採用したヨネックス・ナノブイアイアンは、バックフェースに、カーボンでサンドイッチされた弾性素材のエラストマーと高強度のゴムメタルを装着している。
「1.2ミリという極薄フェースとカーボン、ゴムメタルの反発力で初速を高めると同時に、エラストマーが不快な振動を吸収して打感を向上させる」(ヨネックス開発部開発課長/飯泉剛氏)のがねらいだ。
こうした非金属系素材は今後さらに広がりを見せるのだろうか。2006年モデルのXドライブやV-iQシリーズにもターボラバー技術は当然のように受け継がれている。
「ゴム、樹脂はそれぞれ振動抑制効果も違う。そのため、どんな材料を使い、どんな構造で、どれくらいの分量が必要かという検証は今後も進めていくことになります。ヘッド開発の方向性を示すことになるので明言はできませんが、フィーリングに関わるファクターであり、例えば心地よい打感の追求や、体にやさしいクラブの開発などいろいろなアプローチが可能でしょう」(ブリヂストンスポーツ/今本泰範氏)と、同社ではキーテクノロジーとして位置付けている。
一方、同じくタイヤメーカーを親会社とするSRIスポーツは、4代目ゼクシオのヘッドを従来どおり金属素材だけで仕上げ、スタンスの違いを示した。
「樹脂系の素材をからめるとエネルギーロスが大きくなりますし、金属素材のみでもまだ可能性は無限大にあるといっていい」(SRIスポーツ経営企画部/藤田英明氏)
異なるアプローチで開発を行うライバル同士の競い合い、軍配の行方が来年の素材開発にも影響を与えそうだ。
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