週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。
内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。

　パーシモンからステンレス、チタンと素材が変化しても、ウッドの形状は伝統的な洋梨型が主流で、革新的なデザインは受け入れられなかった。その中で、サイズを大きくしたり、素材を変えてみたりといった工夫が行われてきたが、08年からは反発係数とともにヘッドの大きさにも470㏄いう上限が定められた。そこで新しいルールの範囲内でも、さらに飛距離ややさしさを求めるためにさまざまな「異形ヘッド」が登場している。

「洋梨型」から様変わり

　昨年末に登場したナイキの「サスクワッチ」は、昨今の400㏄オーバーサイズのヘッドを見慣れた目にも特別大きく映る。スカートといわれるサイドのパーツを省略し、クラウンとソールを直接重ね合わせたようなデザインは、できるだけ低く深い重心位置を得るために生まれたもの。

「慣性モーメントが大きく、曲がりにくい。その結果、ロスがなくなって飛距離も出ます」（ナイキゴルフクラブプロダクトマネージャー／高橋伸忠氏）

　クラウンの後方部分だけが目立たないようシルバーに塗装されているのは、大きさからくる違和感を解消するためだ。

「ボールとフェースを見るので、従来のドライバーに近い感覚で構えることができます」（深堀圭一郎）と、比較的小さなヘッドを好むプロにも受け入れられている。

　クリーブランドゴルフの「ハイボア」は、

「USGAのガイドラインの中で最大限のパフォーマンスを出すにはどうしたらいいか。何の制限もなく白紙の状態から考えた」（クリーブランドゴルフR&D／ダン・ストーン氏）ドライバーだという。最大の特徴は通常なら丸く膨らんでいるクラウン部分が大きく窪んでいること。

　ねらいは低重心化と深重心化の両立にある。最近のドライバーは低・深重心をうたっているが、実は両者には、ロフト角がついているために、重心位置を深くするほどフェース面の重心点が上になるという二律背反性がある。これを解決するのが「ハイボア」の異形デザインだという。

「ほとんどのドライバーはスウィートスポットがフェースセンターより上にあり、センターより上で打った方が飛ぶと言われるのはそのためです。しかし最高反発点はフェースセンターですから、スウィートスポットを下げてセンターに一致させれば最高の初速が得られます。またスウィートスポットを低くすることで打ち出し角が高くなり、バックスピンも少なくなります」（同社プロダクトマネージャー／出蔵正一氏）

　日本からは異形フェアウェイウッドが登場した。クラウンのもっとも盛り上がった部分が中心より後方にあり、ラクダのこぶのようなデザインの「ヘクサス」だ。後方体積理論と名付けられた特許技術による最大のメリットは、

「中心より後ろの体積を大きくすることで、重心深度が相当深い位置に設定できます。ヘッド体積200㏄以下でも慣性モーメントは300㏄のドライバー並に大きい」（ヘクサスジャパン／長瀬貞之社長）ところいう。

　こうして見ると良いことづくめに思える異形クラブだが、厳しい見方もある。

「現在クラブ設計の流れは、完成度を高める方向に向かっています。クラブでもボールでも低スピン化が進み、これ以上の低重心化は必要ないところまで来ています。変わったデザインで目を引こうとするクラブは今後も出てくるでしょうが、主流にはならないのでは」（クラブ設計家／竹林隆光氏）

　確かに、過去には、トップレスの「スポルディングトップフライトマグナ」（95年発売）やキャロウェイ「GES」（04年発売）など多くの異形クラブが登場したが、いずれも短命に終わっている（GESは限定生産モデル）

　ただ、最近登場した異形クラブが置かれた状況は異なっている。それは、多くのトッププロが率先して使っていることだ。

「サスクワッチ」はタイガー・ウッズや深堀圭一郎が使って優勝しているし、「ハイボア」もビジェイ・シンら10名以上が使用している。

　また、「ヘクサス」も日本の女子ツアーで浸透し始めている。ゴルフクラブの流行はトップダウンで始まることが多く、2ボールなど異形パターが大ヒットしたのもプロが使って勝ち続けたからといわれている。

　異形クラブが時代の徒花で終わるか、10年に一度のブレイクスルー技術となるかは、プロの活躍にもかかっているようだ。