プレー権は金銭評価の対象か否か――。2年前、債権者集会で可決された民事再生計画案に、プレー権を金銭評価していないことを理由にレッドカードを突きつけた東京高裁が、今度はプレー権は金銭評価の対象にならない、とする正反対の判断を下した。
今回の舞台は、子息の中嶋常幸プロを育てたことで有名な故・中島巌氏が作った東松苑グループのコースの一つである五浦庭園CC(福島県)
同コースの経営会社・株式会社勿来が民事再生手続きの開始を申立てたのは、ちょうど1年前の昨年4月。負債総額293億円のうち、280億円が預託金債務で、金融機関やゼネコンなど会員以外の債権者がほとんどいなかった。
このため、スポンサーなしで預託金の95.5パーセントをカット、退会会員には残り4.5パーセントを9年分割、継続会員には2.9パーセントを9年分割で返し、残り1.6パーセントは9年間据え置きという計画案が昨年10月にすんなり可決された。
ところが、一人の会員からこの計画案に異議を唱える即時抗告がなされ、東京高裁が審理することに。この会員が異議を唱えた理由は、
(1)継続会員と退会会員の扱いが不平等
(2)計画が杜撰
(3)現・代表の中島篤志氏に損害賠償を求めていない、の3点だ。
東京高裁は(2)については過去の実績をもとに主張を退け、(3)については、創業者である巌氏の責任ではあっても、平成7年に巌氏の急逝後代表に就任した篤志氏には責任はないとし、これも主張を退けた。
18Hの五浦庭園CCの預託金総額が280億円にも上るのは、一つには、45Hの計画で用地手当に45H分を投下してしまったこと、そしてハワイの2コース目の建設費用として、グループ会社の総観株式会社に70億円を貸し付けていたことにある。
その総観株式会社は、一足早い平成15年11月に民事再生の計画認可を受け、コース売却代金の一部を株式会社勿来が回収、それが今回の配当原資になっている。
そこで問題になるのが(1)だ。認可決定を受けた計画では、継続会員と退会会員では表面的なカット率こそ同じだが、継続会員は1.6パーセントについては9年以内には返してもらえないし、10年目以降も退会しない限り返ってはこない。
実質的には1.6パーセントの差が付いているのだが、プレー権を金銭評価したらもっと差が出るはず、というわけだ。
東京高裁は平成16年7月、鬼頭季郎裁判長が、鹿島の杜CCの再生計画案の即時抗告に対し、計画案の練り直しを命じている。「プレー権は金銭評価の対象になる」というのがその根拠だった。
認可を受けていた鹿島の杜CCの当初の計画案では、継続会員が60パーセント、退会会員と一般債権者が0.2パーセントと極端に弁済率に差を設けてあった上に、債権金額ベースでは51パーセントと、可決要件ギリギリの支持。
プレー権を金銭評価して、手厚すぎる継続会員の扱いと、退会会員の扱いを平等にせよ、というのが鬼頭判決だったわけだが、当時は継続会員の待遇を厚めにする計画案が主流。
プレー権が金銭評価の対象になる、という判断もゴルフ場の再建を手がける専門家の間ではまったく常識外だった。
「8割、9割の支持で可決されていたら、このままで通ったのでは」「差が極端すぎたからでは」といった声もあったが、この鬼頭判決のインパクトは大きかった。
これ以降、退会会員と継続会員のカット率を同じにする計画案が主流になったことが、その影響の大きさを物語っている。
ところが、今回のケースでは房村精一裁判長が、鬼頭判断とは正反対の「倒産コースのプレー権は金銭評価の対象にならない」という判断で、(1)の主張も棄却。認可済みの計画が生きることになる。
じつは偶然なことにも、今回株式会社勿来の代理人を務め、「プレー権は金銭評価の対象外」という判断を受けた川端基彦弁護士こそが、2年前の鬼頭判決を受けた鹿島の杜の代理人弁護士。一人の弁護士が、2年間で同じ東京高裁から、まったく正反対の判断を受けたわけだ。
前回はダメ出しを喰らい、今回はお墨付きを受けた川端弁護士は、今回の判断について
「プレー権が金銭評価可能か否かは、かなり議論と検証が必要な難しい問題。ただ、前回と違い、今回の決定は現状の再生計画案の流れを認めたもので、大きなインパクトにはならないのでは」
と至って冷静に受け止めている。
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