男子ツアー開幕戦、東建ホームメイトカップの練習場に見慣れない計測機器が現れ、多くの選手がクラブフィッティングを行った。ミサイル開発に使われるレーダー式弾道追尾システム「トラックマン」だ。
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ツアー会場でフィッティング
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クラブフィッティングに科学の目を取り入れたのは、ブリヂストンスポーツのサイエンスアイが最初。元々は、インパクトの瞬間を解析し、クラブ開発に役立てるために作られたものだが、フィッティングに応用できることがわかり、ショップ向けに販売されるようになった。
登場してから20年の間にハード・ソフトともにブラッシュアップされ、シャフトメーカーのフジクラなど他メーカーが導入するほど信頼性の高いシステムとして、全国で1000台以上も普及している。
また、ミズノ、ダンロップなど大手メーカーも独自のシステムを開発しており、大型店を中心にデータを元にしたフィッティングと販売が一般的になっている。
今回、テーラーメイドが持ち込んだトラックマンと、サイエンスアイなど従来からあるインパクト解析システムには大きな違いがある。
従来機がインパクト直後の打ち出し角、初速、スピン量を計測し、弾道をシミュレートするのに対し、トラックマンは、初期データのほか、打ち出し角から落下地点までレーダー波のドップラー効果を利用して実際の弾道をトラッキング(追跡)し、表示する。
計算値より実測値の方が精度の高いのは当然で、近年、多くのメーカーがトラックマンを購入し、クラブやボールの開発に役立てている。
とくにボール開発では、空気抵抗をいかに減らし、揚力を増やすかという空力性能が重視されており、実際の飛び方を解析するシステムはなくてはならない存在となっている。
このトラックマンをフィッティングに利用しようというのがテーラーメイドの試みだ。
「強いとか、伸びるとか、ちょっと上がってるとか、プロでも感覚的な話しかしていません。それでは、ボールがいいのか悪いのか、ロフトがいいのか悪いのか分からない。それがトラックマンなら数値でピシッと出せるので、アドバイスが的確にできます。
ちょっとロフトが足りないなら、1度大きいクラブをすっと差し出して打ってもらえば、ばっちり結果が現れます。プロにも原因がはっきりわかるし、ツアーの現場で生かせる機会です」(テーラーメイドゴルフ/水野明宣氏)
シーズン中には、テストセンターやスタジオまで足を運ぶことが難しい選手にとっても、試合会場で細かなフィッティングができるメリットは大きいし、得られたデータを素早くフィードバックできるようになり、製品開発のスピードアップにもつながりそうだ。
「いろいろとクラブ規制されていますが、限られた中で細部にわたって改良していくことができます」(水野氏)
プロモーション効果も大きい。
「テーラーメイドのクラブの特徴を生かすことができます。ウェートを変えるとスピン量や打ち出しに相当影響しますが、その効果を確認しながらチューンすることができます。ふつうのクラブだったら、重心位置は簡単に変えられないので、方法はわかってもすぐの対応は難しいでしょう」
ねらいはボールのプロモーションにあると警戒するライバルメーカー関係者もいる。
「テーラーメイドさんは、今年からボール契約に含めるか含めないかで契約条件に相当の差をつけているという話も聞いており、ボールに相当力を入れているようです」
男子ツアーのボール使用率は、トップ3社がほぼ独占しているが、トラックマンを使ってクラブとボールでトータルなフィッティングを行えば、慎重な選手の乗り換えを促すことも可能だろう。
トラックマンは、持ち運びが容易な反面、性能を発揮できる条件が限られるという難点がある。落下点がティから視認できることが必要で、それに雨の日は使えない。
テーラーメイドは、今回、諸見里しのぶのフィッティングを行うために、アメリカ本社からトラックマンを運び込んだが、雨で予定は流れた。
「1台1000万円近いので、日本独自で購入するかどうかは検討中。数人の選手ならばアメリカに連れて行ったほうが安く上がります」(前出・水野氏)
トラックマンが今後アマチュア向けとして普及するには、場所と価格がネックとなりそうだ。
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