オーガスタ・ナショナルゴルフクラブのフーティ・ジョンソン会長(75)が引退を表明した。いちプライベートクラブの会長が引退したと思えば、大したことではないかもしれないが、マスターズを運営するクラブで、アメリカでもっとも影響力があるクラブの会長が変わったと考えると、話は違ってくる。
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来年はどう変わる?
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ジョンソン会長がオーガスタの会長になったのは、タイガー・ウッズがプロとして初めてのメジャーであるマスターズで圧勝した1997年の翌年だった。
彼が会長時代には、2度の大改造を経て、オーガスタ・ナショナルを「タイガー・プルーフ」(タイガー対策)のコースにした功績(?)が、挙げられる。
オーガスタの開場以来、長年に渡って手が付けられていなかったコースのヤーデージを伸ばし、「ファーストカット」と呼ばれるラフを導入。その一方で、飛ばないボールをマスターズで使用することを検討するなど、大いに話題を提供してきた。
そのなかでも在任中、もっとも物議を醸したのは、やはり女性メンバーの問題だろう。
オーガスタが男性だけのメンバーシップ制度を採用しているのに対して、女性団体が噛みつき、マスターズのスポンサーなどにボイコット運動を働きかけたため、ゴルフ界の枠を越えて、ちょっとした社会問題になったことがあった。
こうした批判に対してジョンソン会長は、「会員を選択する権利は、プライベートクラブにある」と突っぱね、マスターズをスポンサーなしで開催するという強硬な対抗策で乗り切ったのだ。
「会長としての期間を楽しむと同時に、クラブのメンバーやスタッフ、ボランティアたちと働くことは、非常に報われるものだった。マスターズトーナメントはあらゆる点で成功したし、これからも成功し続けることだろう。この大会を非常に能力ある人々の手に渡してから去ってゆけることを喜んでいる」
と語るジョンソン会長の後任には、これまでメディア広報委員長だったビリー・ペイン氏に決まった。
ペイン氏(58)は、アトランタオリンピックのCEOで、現地開催委員会の会長だった人物。皮肉なのは、このアトランタオリンピックでは、オーガスタナショナルが舞台となり、ゴルフがオリンピックの正式競技になる予定だったが、女性メンバーがいないことや、黒人メンバーが少ないことが問題となり、ゴルフが公式競技になる話がお流れになってしまったことだ。
今回の会長人事とともに、競技・ルール委員会のウィル・ニコルソン(77)委員長も引退し、昨年までUSGAの会長を勤めていた53歳のフレッド・リドレイ氏が、ルール委員長に就任することが決まっている。
現在のUSGA会長のドライバー氏もオーガスタのメンバーだが、USGAもオーガスタナショナルも実質的に意思決定を行うのは、非常に限られた少人数のグループと言われている。
それが今回の人事でも分かるように、オーガスタとUSGAが密接に結びついていることから、オーガスタの会長人事が、今後のアメリカゴルフ界の矛先を知る上で、重要なものになるだろう。
ジョンソン会長も、後任のペイン氏も、ともに銀行・金融畑の出身なので、モノの考え方は似ていると噂されているが、ジョンソン会長の場合は、会長就任以前からプリンスといわれたほど内部での力を持っていた人物だけに、強権策を打ち出すことが出来たと言われている。
これに対して、ペイン氏もリドレイ氏もまだ50代と若く、ジョンソン会長ほどのカリスマ性がないため、逆に時代に即した開かれたオーガスタになるのではないか、とも期待されている。
もっともリドレイ氏の方は、USGAの会長時代に、女性の入会を拒むオーガスタのメンバーであることを批判されたにもかかわらず、辞めずに頑張った人物だ。
同じUSGAの専務理事であるデビット・フェイ氏の方は、男性だけのクラブを退会しているだけに、このリドレイ氏、なかなかの保守派と目されている。会長が変わるのは、今月の21日。今後、マスターズやアメリカのゴルフ界がどのように変わってゆくかが注目されるところだ。
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